来年上演予定の木ノ下歌舞伎「摂州合邦辻」に関する、木ノ下裕一さんの
レクチャーが無料で行われると聞いて、申し込んでいたのですが・・
この日は夕方から台風20号接近。夕方以降により接近すると聞き
どうしよう・・と思いながらも、強行突破しちゃいました♪

摂州合邦辻の愉しみ方
木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』関連企画
『「摂州合邦辻」の愉しみ方』
8月23日 19:00〜21:00
穂の国とよはし芸術劇場PLAT 研修室(無料)








豊橋に向かう途中、蒲郡とか豊川辺りは強風で電車が止まったり、
遅延する事も多く、台風などに弱いエリアを含んでいるため、
豊橋に行けても、帰って来られないのではないか?とドキドキ。

気象情報を色々とチェックしまくって、「何とかなりそう」と、自分なりに
判断した上で向かってはいましたが、周りからは「大丈夫なの?」と言われ、
向かう途中は雨が電車を叩きつけ、途中で風力規制で電車が豊橋駅の目の前で
止まり・・と、もう「どうしよう」がいっぱい。

ただもう豊橋に着いたら、腹を括るしかないよね、と割り切れてきました。
だって、もう来ちゃったんだもんね、なるようにしかならないし。
帰宅時はJRか名鉄のどちらかは動いているといいな、最悪止まっても
新幹線は何とかなるのではないか。
万が一新幹線もアウトなら、レンタカー借りて車で帰るか、もう
そのまま豊橋に泊まって、始発で帰るか。
大阪でネットカフェで夜明かしした事だってある私だ。
そこまで覚悟すれば何とかなるだろう!!って事で。

でも、豊橋駅はその時点では雨が降っておらず何だかそれまで
すごく焦っていたのに拍子抜け(笑)。




電車も少し遅れたので、本当にギリギリに会議室に入れたのですが
資料はセットしてあるけど人は座っておらず・・と言う席も少なからず
あって、台風の影響で来られない人も居たんだろうな、と思います。
周りは焦った様子もないので、地元の方で車で来場されている方が
大多数を占めるんだろうな、と思いました。

ちょうど木下さんと次回作の演出家でもある糸井幸之助さんは
脚本執筆のために豊橋で合宿中だったそうで(劇場がレジデンスとして
住居を用意しているらしい)その「息抜き(木下さん曰く)」で(笑)
来て下さったのだそうです。
木下さんのアフタートークはいつも本当に面白くて、その面白さというのは
「fun」ではなく「interesting」って言ったらいいのかな。
本当にそのジャンルの事が好きで、詳しい人の話と言うのはこんなにも
面白いのか、と思えるものです。
歌舞伎は好きでも、もともと歴史が苦手で、かつやっぱり興味が持てない
私は、なかなか詳しくなれず、そんな自分にイラっとしていた所なので
台風にもめげずに豊橋まで行っちゃったんですよね。

そんな所に木ノ下さんのご登場です。
豊橋には何度もいらっしゃっているという事もあり「ただいま」「おかえり」
なんていうやり取りもあったりしました。

まずは歌舞伎の「摂州合邦辻」というタイトルの説明から。
ちなみにこの演目は文楽作品を歌舞伎化したもの。
「文楽でヒットすると、当時はすぐ歌舞伎がパクったんですよ。
昔の文楽は今でいうところのアニメみたいな存在で、歌舞伎はいわば
今でいう2.5次元舞台みたいな位置づけですね」とのこと。
まずは「摂州」と言う地名の説明と、天王寺の説明、その前の道など
地理的な説明。そして「合邦」と言うものの説明等に時間を割いて
くれますが、それがまた分かりやすい。なるほどねぇ・・。
そして、登場人物についての説明です。

登場人物の相関関係を図にしてくれて、説明をしつつ、ここに出てくる
「俊徳丸」が「身毒丸」の元になっていることや、「弱法師」などに
ついても触れてくれて、急に親近感が(笑)。

現在は「合邦庵室」の部分しか上演されていないという事ですが
それに関わらず、全体のあらすじも説明してくださいました。
今は演目のあらすじ説明をするサイトも幾つもありますが、やっぱり説明して
貰う方が断然分かりやすい。
ただ説明するだけでなく、その周辺知識も併せて説明してくださいますから。
「古典を読む時には年齢を1.5倍すると現代の年齢と感覚が合う」という
お話から、20歳ぐらいの玉手御前がだいたい30歳ぐらいで、決して
「若い」と言う訳ではない事、俊徳丸や朝香姫、次郎丸の年齢や、
高安の当主は病気で結構なご年配だったという事、当時のライ病が「業病」
と言われるなど、当時の受け止められ方など・・。
(ライ病は穢れでもあり、同時に聖なるものでもあるとか。)
舞台映像も見せて下さりながらの説明なので、本当に分かりやすい。
俊徳と朝香姫、玉手御前の出身がそれぞれ摂津と和泉と河内に分かれていて
舞台となる天王寺がその中心辺りに位置するというのも面白かった。

また堅苦しく説明するという訳ではなく、映像を観ながら「ここは細かい芝居を
していますねぇ」と玉手御前の表情を説明してくれたかと思いきや、朝香姫を
追っ払おうとする玉手御前に「歌舞伎って、細かいかと思うと突然表現が
雑になったりして面白いですねぇ」と笑い飛ばしたり(笑)。

もう、歌舞伎を観る時には毎回木ノ下さんの説明が聞きたいわ(笑)。
ていうか、解説講座を有料で動画配信してくれたら、お金を払ってでも
色んな演目について教えてもらいたいぐらい。

演目の説明のほか、玉手御前が延々と死ぬ前に説明を述べていて
時間の使い方がすごい極端だ、と言う話があったのですが、これは
体感的な時間を表しているのだ、と言う説明も目から鱗でした。
1分なら、その1分は誰にとっても等しいというのが現代の私たちの
考えだけど、昔は違って、何もない1分は「0」と同じ。
逆に意味のある時間は長く感じるというもの。
だから、玉手御前の独白に凄い時間を取っているのは、アンバランス
なのではなく、そこが「意味のあるもの」だから時間が長いという
事なんだ、って所ですね。
確かに歌舞伎って、そういう所、ある。

どうしても私は舞台を観ると共感できる所を探しがち。
でも古典は、全く共感できない所もあったりする。
「全然共感できない所、ありますよ。生血を飲むとか、現代の感覚じゃ・・」
と言われて、ほうー木ノ下さん程の方でも?というのが新鮮。
そういう古典を見ながら、現代人が無くした感覚を想いだせる事も
あるだろうし、何故共感出来ないか、を考えていくのも古典を観る
愉しみだ、と言うお話もありました。
私はまだまだまだまだその域には達していないのだけど、木ノ下さんが
仰っている意味は分かりました。

次回の木ノ下歌舞伎、まだ劇作の途中との事でしたが
「病」「死」「生」に対する価値観がキーワードになりそう。あと「親子」。
上演時間は「2時間以内を考えています」とのお言葉もありました。
こりゃ、是非観に行かなければね。
無料でこんなに色々なお話が聞けて、本当にお得。
無茶を承知でやってきて良かったです。


ちなみに帰りですが、到着した時よりも随分強風が吹いており
「げ、ヤバいかも」とは思いましたが、多少の遅れはありつつも
電車は運行しており、無事帰宅する事が出来ました。

劇場内は防音にとても気を遣って設計したと伺っていましたが
会議室は普通にすぐ横を通過していく新幹線の音が聞こえましたので
「この音が聞こえている間は、名古屋に帰れる」と思って
安心してお話を聞くことが出来ました。外の音が聞こえるのって、
普通は迷惑なものですが、今回に限ってはとても助かりました。
お話を聞いている間に、スマホで運行状況を見る訳にもいきませんから(笑)。