庭劇団ペニノは名前は知っているし、作・演出のタニノクロウ氏も
知ってはいましたが、どんな作風の劇団なのか、全く分からず。
でもPlatが呼ぶんだから、観てみましょう!という事で。

笑顔の砦「「笑顔の砦」RE-CREATION」穂の国とよはし芸術劇場Plat
アートスペース D列(最前列) 14:30開演、16:35終演
作・演出:タニノクロウ
出演:井上和也、FOペレイラ宏一朗、緒方晋、坂井初音、たなべ勝也、野村眞人、百元夏繪
【あらすじ】
日本海に面した小さな漁港町。漁師たちが住むアパートに、ある家族が引っ越してくる。兄弟のように仲良く、笑いの絶えない日々を送る漁師。認知症の母親を持つ家族。まるで違う二つの部屋、二つの時間。しかし、次第に影響し合い、何気ない日常は変化していく。本当はただ笑って生きていたいだけなのに。



これは以前からあった同作を、再度練り直して作った作品なので
「RE-CREATION」とついているんですね。
舞台には幕がひかれていますが、アートスペースでこんな幕が
降りているのは、ちょっと意外な感じがします。





 
幕があくと、そこには2つの部屋が出現していました。
下手側にはコタツもテレビもある、人が暮らしている部屋。
上手側にはまだ人が入居していない、がらんどうの部屋。
水回りやドアなどはそれぞれ逆に設置されていますが、部屋の造りは
全く同じようなので、賃貸住居の2部屋を覗き見しているような、そんな感じ。
それにしてもセットが細かく作りこまれていてビックリします。

そこにドヤドヤ人が入ってきます。
下手部屋に入ってきたのは、漁から帰った漁師の男たちのようで
好みの女性の話をしたりしつつ、食事の用意をしていきます。
何ていうかな、もう何年もずーっと同じ生活をしているんだろうな
という事が、セリフが無くても分かるんですよ。
料理をしている時に自然にできている業務分担、特に何も言わなくても
伝わる料理の好み、遠慮のない会話。その中でも上限関係がちゃんと
あるのも分かります。
動作だけでこの人達の人間関係や上下関係などが伝わってくるって
良く考えたらすごい事です。きっと船の上でもこうやって
言葉にしなくても助け合う、チームワークで仕事をこなしている
んだろうな、という事まで推測できちゃう。
確かにお上品ではなくて、荒っぽい性格なんだろうな、とは思うけど
星占いを気にするような、可愛らしいところもある。
(これは、漁という不確かなものを扱う仕事なので、神棚に手を
合わせたり、占いを信じたり、という所がある、という事なんだとか)
これ以上ないチームワークがあり、とても楽しそうで活き活きしてる
というのが印象的。

そして、ここで出てくる食事は結構ガチ(本物の料理)なんですよね。
アフタートークで「料理の匂いも伝わったら」とタニノクロウさんが
おっしゃっていたので、拘りなんだろうな、と思います。
でも、最前列でも匂いは・・・残念ながら。
昔、舞台上でもんじゃを焼いた時にすごく匂ってきたのを思い出し
ましたが(ニンニクをオリーブオイルで炒めたのもあったな)、
あれぐらい強烈な匂いでないと、やっぱり難しいんだと思う。

そして、その隣の部屋に新たな入居人が。
音楽が流れて少し長めの暗転の後、驚くぐらい上手の部屋が
「入居後」の部屋に変わってるの!別のセットが用意されていて
入れ替えたのか?と思うぐらい。
いやいや、愛知県芸術劇場の大ホールぐらいならそれも可能だろうけど
アートスペースじゃ無理だよね・・・と思っていたら、これも
アフタートークで暗転中に小物を一気にセッティングしていたらしい
という事が分かりました。
音楽が流れ、ナレーションが流れているから気づきづらい、とは思うけど
転換の時のバタバタ感、最前列なの全く感じなくて驚いちゃった。

上手の部屋にドーンと鎮座しているのは、大きな介護ベッドと
ポータブルトイレ。新たな入居者は、要介護者とその息子でした。
母親はどうやら認知症らしい。
明らかに息子は優しいけど気が弱く、娘に色々と頼むけれど
なかなか強く言う事も出来ない様子。
母親が「海が見たい」と言い出したので、新しい生活を始めたところ。
その頃下手でも、期間限定の「バイト」がやって来るんだけど
「割がいいバイトだから」と平然と言い放つ、ある意味イマドキの子で
今までの鉄壁にチームワークに、微妙に入る異物感。

全体的に、生活感があふれているというか、リアリティがすごい。
調理シーンはガチだし、認知症のおばあちゃんが、トイレに失敗して
しまうシーンや、孫の髪飾りをお花だと思ってペットボトル飲料を
頭にかけてしまうシーンとか、祖母と一緒に暮らしていた時期があった
事もあって、笑えなかったわ・・・。
母親のために恐らく色々なものを犠牲にして引っ越してきたのに、
(認知症のためとはいえ)「家に帰りたい」と言い続ける母親に
途方に暮れるシーンはもう、辛くって。

漁師チームも先輩格の亮太が漁師を止めて実家に戻る・・となり
亮太を漁師として育ててきたタケさんとしては、「親は大切にすべき」
と頭では思うものの、寂しさというか、今後に対する不安がね・・。
恐らく何となくこういう日が来る事があるだろう、と頭では
分かっていたけど、いざとなると途方に暮れてしまっている感じが
真っ暗な中でひたすら飲みながらテレビを見る様子に出ていました。

また暗転となった後は、上手側の部屋がキレイさっぱり何もない
状態に戻っていて、またビックリ。
タケさんたちは亮太が居なくなっても、アルバイトだった大吾が
ちゃんと漁師として新たな生活が始まり、上手の部屋にいた勉と
その母親は、恐らく前に居た家か施設に引っ越していったのでしょう。
それぞれに新しい生活が始まって、幕。

大きな事件が起きる訳でもなく、淡々とそれぞれの対照的な
二部屋の生活が描かれる、と言う舞台。
分かりやすくベタな感じの作品ではあるけど、それぞれの「家族」
を通して、歳を取る事や、変わりたくなくても変わってしまう
時の残酷さなども感じられる舞台だったな、と思います。
ただ、この作品は庭劇団ペニノの中でも異色という事なので、
この作品をもって、ペニノを観続けていきたい!と思うか
どうか、については何とも判断つかず、という所でしょうか。
違う作品も機会があれば観てみたいとは思いますけどね。