今回の遠征の3本目はこちら。
上演が決まって「やった!」と思ったし、とにかく楽しみでした。

治天ノ君2019
劇団チョコレートケーキ 第31回公演「治天ノ君」
東京芸術劇場シアターイースト G列 14:00開演、16:20終演
脚本:古川健   演出:日澤雄介
出演:西尾友樹、浅井伸治、岡本篤、青木シシャモ、菊池豪、佐瀬弘幸
   谷仲恵輔、吉田テツタ、松本紀保
【あらすじ】
激動の明治・昭和に挟まれた『大正時代』。そこに君臨していた男の記憶は現代からは既に遠い。暗君であったと語られる悲劇の帝王、大正天皇嘉仁。しかし、その僅かな足跡は、人間らしい苦悩と喜びの交じり合った生涯が確かにそこにあったことを物語る。明治天皇の唯一の皇子でありながら、家族的な愛情に恵まれなかった少年時代。父との軋轢を乗り越え、自我を確立した皇太子時代。そして帝王としてあまりに寂しいその引退とその死。今や語られることのない、忘れられた天皇のその人生、その愛とは?



私は人を誘う事と、人に何かを薦めることがとても苦手。
そんな私でも、この作品だけは皆に薦めたくなるぐらい、
前回観た時のインパクトが強かった公演です。
それが今回は、アフターアクトのある回ですから、超楽しみで。
前回観た時ほど前方席ではないのですが、センターに近い上手寄り、
ちょうど花道状のレッドカーペット全部が見渡せるという
とても観やすいお席でした。
ここを歩いている姿が観られる席でよかったわ・・と。






舞台には天蓋付きの椅子が置かれており、そこに繋がる赤い
カーペットが客席から続いているのみ。セットも前回と同じですね。
客席後方から、貞明皇后節子(松本紀保)に支えられながら
舞台上の椅子に向かって歩いてくる大正天皇嘉仁(西尾友樹)。

ああ、そうだった、こういうオープニングだったね、と思い出す私。
横を通り過ぎる時に二人を観ていると、紀保さんにつかまる
西尾さんの手に、力が入っている事が分かります。
大正天皇がもう歩行も困難になっている状態なので・・。

舞台の全体の感想は、以前拝見した時に結構ガッツリ書いたので
ここでは割愛。いい意味で前回感じた印象が大きく変わる事は
無かったな、と思います。


大正天皇は「天皇である」という事に縛られてしまった人・・
と言う印象が非常に強かったです。
もちろんこれは、前回の観劇時にも感じた事ではあったのですが
今回は特に痛々しく感じられました。

息子に摂政を任せてしまえば楽になれると思っても、もう呪縛に
縛られた大正天皇は、その選択肢を選べないんですよね。
良き天皇でなければならない、その為に逃げてはいけない・・と。
その姿が、本当に痛々しくて。

前回は、最後に大正天皇が「君には苦労をかけた、怒る時も
泣く時も、笑う時も一緒だっただろうか」のセリフで涙腺が
崩壊した事を覚えていますが(照)、今回このセリフ、相変わらず
素敵だなぁと思ったのですけど、必要以上に感情的にならないように
演じているように見えましたし、私も比較的冷静に観られました(笑)。

いい意味で、皇后の貞子妃が淡々と皇后(皇太后)として、そして妻、
母として大正天皇を思い出し、誰が何と言おうとも自分の中にある
大正天皇を大切にしていくのだ、という意思が感じられた作品でした。
前回ほど泣けなかったけど、とはいえ序盤からずっとウルウルして。
(今回は、大正天皇が看護疲れで寝てしまった貞子妃を起こさないように
一人で軍歌を歌いながら歩く練習を四竃とするシーンが一番泣けました)

あれからちょっと調べてみたのですが、明治天皇の皇子が相次いで
夭逝してしまったり、有栖川宮威仁も体が弱くて若くして亡くなって
いるようですが、公家華族や武家華族の子供が幼くして亡くなる
と言う事例が多かったそうです。
宮中では鉛や水銀を原料とする白粉が使われていたのが、その原因で
つまり母体への鉛や水銀中毒が影響したと考えられているんだとか。
そうすると、生まれたのがこの時代でなければ、病気で苦しむこと
すらなかった可能性が高いのか・・と思うと、切なさが増します。

相変わらず、松本紀保さんの気高さや威厳、幼いころの無邪気さの
演じ分けは素晴らしい。
西尾さんは、感情を振り切る場面での爆発力が、やはり相変わらず
素晴らしくて、怖いぐらいです。
前回は劇チョコをまだ観始めたばかりだったので、この二人の印象が
強く残っていたものですが、今改めてもう一度観ると、浅井さんの
演じる昭和天皇の冷静で怜悧な応対の中で見せる感情の揺らぎもいいし
岡本さんの演じる侍従の四竃の真っ直ぐさもピッタリでしたね。

さすがに初めて観た時程の衝撃は無かったけど、いい作品だと思う。
ちょうど天皇陛下の退位・即位がある年の上演という事で、
(意図されたものかどうかは分かりませんが)皇室のこれまでの事や
皇室などについて、ちょっと考える機会にもなりましたね。
大正天皇が崩御されたのが47歳の時という事も、現在49歳の私
にとっては、色々と考えるものがありました。
何年先でもいいけど、この作品は再演を繰り返してほしいなと思います。


そして今回のお目当てはアフターアクトです。
そのせいで、この千秋楽はあっという間にチケットが売り切れ。
通常だと一人ずつのアフターアクトが、3人全部観られる唯一の回
ですから、そりゃあ・・ね。

通常通り終演を迎えた後、アナウンスがあり客はそのまま座席で
待っていると、岡本さんがご登場です。
私、勝手に「3人が出てくるアフターアクト」があるものだと
思い込んでいたのですが、別の日で上演していたそれぞれの
アフターアクトの一挙上演だったのでした。

■岡本篤さんのアフターアクト
舞台上の岡本さんは、茶色のカーデガンを羽織っていて、カジュアル。
どうやら、大正天皇の侍従だった四竃孝輔ではなくて、その
息子と言う設定のようで、昭和後期。大正天皇について調べている・・
という人が話を聞きにやって来た、という設定でした。

父親である四竃孝輔はあまり大正天皇の事は話さなかった、
と言いつつ、大正天皇が崩御された時に父親がボロボロに泣いて
いた事や、亡くなる直前に明治神宮参拝を願い亡き明治天皇や
大正天皇にお参りをし最後まで忠誠を示したこと。
そして、子供の頃、厳しい父親が軍歌を歌っている時の優しい
表情と父親が涙していた事を思い出す・・と語る四竃の息子。
その歌は、私が今回一番泣いた、大正天皇が歩行訓練をしながら
「歌詞が思い出せない」と言っていた、あのシーンの軍歌でした。
そして岡本さんがその歌を歌っているうちに、暗転−


■西尾友樹さんのアフターアクト
西尾さんのアフターアクトだけは、もう1人役者さんが出てました。
「この愚か者が」という明治天皇のセリフに対して、必死に、
全力で自分の意見を訴えるんですけど、なんか・・・??という
雰囲気なんですよね。
本編では大正天皇は明治天皇に口ごたえなんかできない雰囲気だし
「こうやって上から押さえつける!」のような、コミカルな
雰囲気。「何を言っても無駄だから、もう出ていく」と。

ちょっと客席いじりなんかもあったりして、コミカルだし
全く雰囲気が違うんですけどー!!

と思ったら、上手から明治天皇(谷仲恵輔)が登場です。
「お前、一人で何をやってるんだ」と。
ああ、なるほど。
父親に対して色々意見したり、反発したり、皇族を離れて自由に
なる・・・という妄想を一人芝居をしていた、という一人芝居
だったんですね(笑)。本編とはあまりにトーンが違うので
ちょっと面喰っちゃいました。


■浅井伸治さんのアフターアクト
赤ちゃんの泣き声がして、赤ん坊を抱いた昭和天皇を演じる浅井さん
が客席後方からやって来ます。
そうだ、昭和天皇から乳母制度が廃止されて、天皇皇后両陛下が
実際に育児に関わられたんだったな・・と思い至ります。

そこでは昭和天皇が赤ちゃんに色々と語りかけます。
天皇は神でなければならない、お前がその「神」なる頃、国民が
幸せになれているのだろうか、等。
そして自分も強くなり、帝の務めを果たそうという強い意志を
語りますが、父親である大正天皇、祖父である明治天皇のありようと
自分が進む道について考えているようにも思えるし、「帝の務めを果たす」
という強い意志には、父親の姿を見ているようでもあります。
そして「軍歌はいいな」と、岡本さんのアフターアクトでも触れられて
いた軍歌を子供に歌って聞かせて、「立派になれ」と言い暗転。
すると真っ暗な中で軍歌が流れ、飛行機の音、爆発音が流れてきます。

そしてライトがつくと、子供は無く、マイクに向かって一人立ち
語り続ける様子になります。その内容は終戦時にラジオで放送された
玉音放送でした・・・。



アフターアクトは役者さんそれぞれが内容を考えて上演している、という
事だったのですが、そういう意味では浅井さんのアフターアクトが
一番重いけど私好みでした。
西尾さんのはコミカルすぎて、本編と続きで観ると、はちょっと違和感
があったかな、とも思います。
アフタートークもいいけど、面白い試みだよね、これ。

ただ、私のような遠征者は観劇日が限られるので、アフターアクトが
ある日に観られるとは限られなくて、それがなぁ・・・とは思います。
それにしても、浅井さんの赤ちゃんをだっこする手つきの
危なっかしいことと言ったら・・!そこにはちょっと苦笑しちゃった。