劇団公演ではないですが、劇団員もフル出演ですので、
殆どイキウメの公演みたいな印象です。前川さんの作品なので
観ないという選択肢は無いですから、楽しみにしていました。

終わりのない「終わりのない」世田谷パブリックシアター B列
14:00開演  16:00終演
作・演出:前川知大
出演:山田裕貴、安井順平、浜田信也、盛隆二、森下創、大窪人衛、奈緒、清水葉月、村岡希美、仲村トオル
【あらすじ】
ある日、悠里は両親と友達に、湖畔のキャンプに連れ出される。過去に思いを馳せていると、いつの間にか悠理の意識はキャンプ場を離れ、見知らぬところで目を覚ます。そこははるか未来の宇宙船の中。その船は人類の新たな故郷を目指して旅を続ける、巨大な入植船だった。32世紀のユーリとして目覚めた悠理は、自分が誰で、どこにいるのかも分からない。宇宙船から逃げ出した悠理の意識は、宇宙空間を漂い、地球によく似た見知らぬ惑星で目を覚ます。自分そっくりの肉体の中で。奇妙な旅を経て、悠理の意識は再びキャンプ場に戻ってくるが、その世界は自分の知っている世界とは少し違っていた。自分はなぜここにいるのだろう。帰りたい。悠理は自分の世界で、目的地を探そうとする。



古代ギリシャの叙事詩『オデュッセイア』を原典にした新作SFだとか。
うわぁ、『オデュッセイア』全然わからないわ(笑)。
大丈夫かしらねー、と思いつつ、前川さんだし、大丈夫でしょう!と
全く根拠のない自信をもって、劇場へ。
劇団公演ではないけど、大きな世田谷パブリックシアターでの公演が
出来るようになったんだなぁ、等と、親心(笑)。




 
舞台を観てから『オデュッセイア』を調べてみると、「オデュッセウスが、
トロイア戦争からの凱旋(がいせん)の帰途に体験した10余年の漂流と、
不在中に王妃ペネロペに言い寄った男たちへの報復を描く冒険物語」とのこと。
ふむ。「漂流」と「冒険物語」というのは、なんか分かるかな。

幕が開くと、人間が浮かんでいる。でもそれは悠理の語りで、
悠理が9歳の頃、海で溺れた時を表していたんだと分かりますが、どこか
幻想的で印象に残るビジュアルです。
そして悠理が語る「これは、僕の物語なんだ」で幕が開きます。
全編にわたり、悠理の語りがベースになってお話を進んでいきます。

場面は変わってキャンプ場。
悠理の家族と悠理の幼馴染でキャンプにやって来ている所。
まあ、悠理って平たく言えば引きこもり気味なクズなんですよね(笑)。
付き合っていた女の子を妊娠させ、流産を「ラッキー」と言って
嫌われたり、して。
幼馴染の二人はそんな悠理の事を気遣い、でもそういう様子は見せずに
普通に接しているけど、家業を継ぐ春喜(大窪人衛)や、留学が決まった
りさ(清水葉月)が眩しくて、妬ましくて、有能だけど能天気な両親にも、
その両親が離婚宣言をしようとしたことも面白くなくて、
逃げるように泳ぎに行って、また溺れてしまう。

気が付くとそこは宇宙船。しかも1000年後らしい。
自分はこの宇宙船のメンバーによって、この宇宙船の乗務員で
「ユーリ」という人の意識を移植して、再生しようとしたクローンだと
言われるが、失敗作として「処分」され、また別の惑星に飛ばされる。
その間もずっと「帰りたい」「帰りたい」と念じ続け、その次に飛ばされた
のはまた同じキャンプ場だけど、何かが違う。
クズだったはずの悠理は、文武両道に秀でた青年として扱われている。
同級生を妊娠させたりもしていないらしい。
まあ、結局両親はここでも離婚すると言うので、全部が違っているという
訳でもないのだけど、ちょっと「ズレ」ているような感じ。

そこで、悠理は昔、母親から聞いた量子物理の多世界解釈を再度説明して
と頼むのだけどこの説明がまあ、分かりやすいのですよ。
最初に出てきたキャンプ場と、今観ているキャンプ場がちょっとずれて
いる感じがこの「分岐した世界」なのかしら?
でも、それぞれの世界を行ったり来たりは出来ないと言うんだけど。

つまり、こういう事?
宇宙船でダンが記録を調べても居ましたが、悠理は9歳のダイビングの
事故で死んでいた。でも「死ななかった」という世界も多元世界の一つ
として存在していた、と。

最後に戻ってきたのは、一番最初のヘタレの悠理が居たキャンプ場の世界。
既に環境破壊で地球が住めない状態になってしまった世界も、量子コンピューター
の開発を成し遂げるレジェンドになる世界も知っている悠理。
地球環境の保護を訴えるために政治家を目指すという父親にも
自分の大学での研究を続ける母親にも、「頑張ってね」と声を掛ける。
恐らく、最初から言いたかったんであろうけど、言えなかった言葉。
父親は「人類の未来よりも、お前が心配なんだ」と語るけど、
悠理は「もう、自分は大丈夫。自分を救えるのは自分だけだから」と
泣き崩れるんですよね。自分が「死んでいた」事に気づいたという事かな。
キャンプ場に居たはずの人はこの間に全て消えてしまっていたものね。

今まで色々と広がっていった、大きな大きな世界が、ぎゅーっと
狭まっていく、まるで悠理の母親が説明してくれた「収縮」ですか?
が起きたかのように、一人称の世界に移行していきます感じが、たまんない。
ゾクゾクしちゃいました。

悠理を演じた山田裕貴さんは、どなたかよく存じ上げませんでしたが、
とても良かったです。この舞台で第74回文化庁芸術祭賞演劇部門新人賞を
受賞されたんですよね、確か。
本当にクズなんですよ、この舞台での山田さんは。(←褒めてます)
実世界のクズが舞台でクズのまま演技しても、面白くないんでしょう。
それを「本当にクズに見える」演技って、絶妙じゃん!と思うのです。
クーラーボックスに吐くシーンなんて、一緒に観ていた友人は
「あ”−−−!」って言っちゃってましたからね(笑)。

劇団員の皆さんの安定感は抜群だし(浜田さんのロボット感は絶品だね)、
仲村トオルさんと村岡希美さんは既に前川さんの舞台に出ている事もあって、
本当にしっくりきます。この夫婦の絶妙な掛け合い最高。
でも何気にこの離婚理由は、かなり現代的で深かったですけどね。
(内助の功とかマジFuckだから、って、カッコ良かった(笑))
特に仲村トオルさんは前川脚本への参加は数多いけど、相性がいいと思う。

シンプルな舞台だけど、照明がとても印象的だったなぁ、と思います。
ちゃんと理解したか?と問われると自信が無いんだけど、でもとても
内容に引き込まれて、面白く拝見出来た舞台です。
さすが前川さんだよ。


あと、舞台の本筋には関係ないのだけど、前川さんのツイートで
思わず笑っちゃったものがあるので、記録の為にも貼っておく(笑)。

tweet

いずれにしても、観れば観る程思う所や気づくところが出てきそう。
DVDが2月に発売されるとの事なので、次のイキウメ公演で
買ってしまおうかな♪と思っています。