仕事が終わって向かったのは、東文化小劇場。
わあ・・・久しぶりだわぁ、15年以上ぶりかしら?目的はこちら。

あの記憶の記録
劇団チョコレートケーキ「あの記憶の記録」東文化小劇場
作:古川健  演出:日澤雄介
出演:岡本篤、浅井伸治、足立英、川添美和、藤松祥子、吉川亜紀子
   吉田久美、吉田テツタ
【あらすじ】
1970年。イスラエル・テルアビブ市内のある一家。元気に学校ヘ出かける息子と娘。見送る母親。三人を温かな眼差しで見つめる父親。平凡だが、穏やかな家族のありふれた壱日が始まろうとしていた。しかし父親には、誰にも語らないできた秘密があった。戦争を生き延びた男の胸奥に、深く刻み込まれた「あの記憶」とは・・。

 

一昨年に東京で観た公演です。
「熱狂」とセットで上演されるのがデフォルトだと思っていたので
何故これだけ?「治天ノ君」を上演すればいいのに・・と思ったし
一昨年観たからいいかなぁ・・と思わなくも無かったのですが
せっかく劇チョコが名古屋で観られるならば!とやって来ました。
劇チョコはいつもこれぐらいの値段で指定席なので、すっかり
指定席だと思い込んでいたら、自由席だった(爆)。







何だろう、同じ公演なのに前回よりもガツンと来た・・。

一昨年観た時と受ける印象とか衝撃度が全く違って
その事自体に自分が驚きましたね。
話の内容も全部知っているし、何ならテレビ放送されたものを
録画して何度か観ているので(好きな舞台は何度でも観る派(笑))
今更驚く事もないと思っていたのだけど、まずゾンダーコマンドとして
従事されていたガス室でのエピソードが、辛くて、辛くて、
「もう・・勘弁してください・・」と心の中で思ったぐらい。
その後の話も辛いから、観終わった時には胃がギューっと締め付けられた
ような感じ。(空腹だったこともあると思いますけどね(笑))
なので、同じように衝撃を受けて立ち尽くしているイツハク以外の
人への共感はハンパない。
岡本さんの「何を見ているのだろう」と思う表情が切なかったな・・。
サラ先生も前回観た時よりも、言い合う時はずっと迫力がありましたね。

あとは、ビルクナーが言わんとしていることがよく分かったので
この作品が何を落としどころにしたいと思っているのか、が
私なりに前回よりもよく伝わってきます。
これはね、「熱狂」を観ているから、ビルクナーがどんな人なのか
(決して冷酷な人ではなかった、ビルクナー自身もある意味この
時代の被害者だった)分かっているし、この作品で彼がどういう結末
を迎えるかを分かっていたからなんだろうな、と推察できる。
前回はそこまで響かなかった、ラストがすごく響きましたね。
「お前は誰だ」「俺は俺だ」「ふざけるな」・・イツハクが叫ぶと
ビルクナーが彼自信の言葉として全く同じセリフを言いかえす。
加害者側・被害者側が紙一重という側面があるんだと思わされます。

今までオウム返ししてきたビルクナーが違う言葉を発したのが
「もう、助けてくれ」とイツハクが要った後。
「分かっているだろう、助けを求める相手は俺じゃない」
 (この時の浅井さんの表情がいいのよね〜)
そして、客席に向かい、客電がついた状態で私達に語るビルクナー。
「世界は憎しみに満ちている。俺たちが滅びても、憎しみは滅びない」
のセリフの響き方は、前回とは比べ物にならなかった。

何だかセリフも変わってる・・と思って、映像を帰宅後すぐに
見直してみたのだけど、実はほとんど変わっていないようで
(今回観た作品を録画した訳じゃないので正確ではないけれども)、
なぜそう思ったのかのか・・。
恐らく、受ける印象が違う、観た事があるからこそ、響くポイントが
違って、セリフまで違っていたような印象を受けたのではないかと。
演出としては、イツハクが蝋燭の炎を見つめる演出が無かったり
テーブルの配置が違ったり、二人の子供の関係性(今回は妹のほうが
主導権を持っているというか、しっかりしている印象だった)が
ちょっと違ったり。地方公演だからでしょうが、サラ先生が客席から
登場しない、といった明確な演出の違いはありました。

そこまで大きな違いではないけれども、ビルクナーもちょっと違ってたな。
前回は「熱狂」と言う作品で補完されるという事もあったのかも?
と思うけど、もっと冷淡というか、感情のない演出だったと思います。
でも今回は、ガス室に送り込むゾンダーコマンドたちのマネをしている時
(「マダム、脱いだ服の場所は覚えておいてくださいね〜」とか)を
からかっているような言い方をしたり、「おれもミュンヘンの失業者だった」
と言う時の距離感が違ったりしていて、ビルクナー自身が一人の人間として
感じられた(もちろんそれは、イツハクを通して見たビルクナーなんだけど)
んですよね。その本当の意図は分かりませんが、1本の作品として
(「熱狂」の存在が無いので)より完結していたような印象を受けました。

演出は相変わらず、椅子や机を色々なものに見立て、シームレス。
たった2時間程度の舞台なのに、ダレる事無く、力いっぱい最後まで
引っ張られて(心では「もう勘弁して」と思っているので(笑))
ゴールまで連れて行かれた、っていう感覚の舞台でした。

キャストに関しては、イツハクの兄、アロンと、イツハクの息子
ヤコブ(愛知県のご出身だったようですね)役の方が変わっただけで
それ以外は同じです。
キャストが変わったことで芝居の印象が変わる事もありますが、今回は
それが当てはまるようにも思わない。
(お兄さん役に関しては役者さんの個性が出ていたせいか、良し悪し
ではなくて、雰囲気は違いましたけどね)

前回の感想を読み直すと、割とちゃんと書いていた事に自分で驚いた(笑)。 

これらの感想はやはり今回も同じように感じたけれど、より子供たちへの
教育の大切さ、怖さを感じたし、「憎しみ」はどの世界でも続いていて、
それが争いにつながるという事を前回観た時よりも、よりリアルに実生活で
感じるようになった、という事実に、ちょっと寒気がしたりもしました。
そして、何度見てもやはり私は、サラ先生には同意できなかったし
前回以上に嫌悪感を感じもしましたね。


普段はあまりストプレで再演を観ない私。例外はイキウメぐらい。
(というか前川知大さんの作品)。
推しが出る作品は「愛でる」という要素があるので論外(笑)だし
イキウメ自体が推し、という考え方もあるのですが、前川さんの作品は
再演になる度に脚本や演出がガラっと変わる事も多くて「そうきたか」
と思う変化があるので、再演も目が離せない。
この作品に関しては、そういう訳じゃないけど、観てよかったと思う。
再演を観るって、実は面白いのかもしれない・・。
これ、観劇数が増えるヤバい傾向だわ(笑)。

思いがけず名古屋で劇チョコが観られたのは嬉しい出来事です。
「治天ノ君」を観たばかりなので、まさかこの時期に観られるとは
思っていなかったし。でも、そろそろ新作が観たいぞ。