今年の遠征納めはこちらでした。
行くのが大変なKAAT。電車に乗っちゃえば最寄駅からは近いんだけど
どうも心理的に「遠い」印象がぬぐえなくて。

マクベスDULL-COLORED POP「マクベス」KAAT大スタジオ最前列
開演:13:00 終演:14:55(本来は90分)
原作:W.シェイクスピア  翻案・演出:谷賢一
出演:東谷英人、大原研二、倉橋愛実、宮地洸成、百花亜希、淺場万矢
※あらすじは、パスさせてください









本当はこの作品は観る予定ではなかった(スケジュール的に無理だった)
のですが、「ナウシカ」が希望の席のチケットが取れず断念。
「ナウシカ」の為に空けておいた日程と上演期間が重なり
それならば、観るしかないでしょう!と。

私はPLATでのシェイクスピア講座の講師に谷賢一さんが来てくれた
時のお話が本当に面白いと思ったので、早く谷さんがシェイクスピア
演出してくれないかしら・・と思っていたんです。
なので、そういう意味でも嬉しくて。
本来は自由席なのですが、劇団先行で予約したため、席をキープ
してくださっていまして(「ザックリ指定席」と言うらしい)
最前列の、T字型になった花道のすぐ横という、臨場感溢れる席で
観劇する事になりました。
(私が「前方の真ん中希望」って書いておいたからかな(笑)?)

しかしKAATTって色々な場所があるんですね。
大ホール、大スタジオ、中スタジオ・小スタジオ。
交通の面で避けたい劇場ではありますが、開放的で、いい劇場です。




開演間近になって来た時に、演出家の谷さんが客席に降りてきて
こんなものを配ってくださいました。
ご招待状
「ご招待状」。劇中の晩餐会への招待状という事らしいです。
ははーん、あのシーンで客も舞台に参加してね、って事なのね。
主に最前列と、花道のすぐ横の人が配られていたようです。

マクベスやバンクォーなどはビジネススーツ姿です。
あら、現代に置き換えた話なのかしら?と思って観ていましたが
セリフはキッチリと「マクベス」です。
別に設定が現代に置き換えられている、という訳でもありません。
あらら、何故衣装がスーツ姿なのかしら?なんて思っていましたが
途中でアイフォンの呼び出し音がしたり(誰か客席で鳴らしたか?と
思った)、iPadが出てきたり、現代の小物も出てくるんですけどね。

マクベス(東谷英人)もバンクォー(大原研二)のお二人は既に
福島三部作で拝見したお二人です。
一般的に描かれるマクベスって、もっと「勇猛果敢な武人」という
キャラクターだと思うのですが、今回のマクベスはそんな感じではない。
ビジネスマンっぽいとうか、割と「普通の人」のオーラがあります。
ダンカン王をの殺人をトイレの個室の中で、便座に座って思い悩む・・・。
あまり激昂する感じでもなく、冷徹な人と言う印象の方が強い。

バンクォーも同じくビジネスマンっぽいんですが、こちらの方が
比較的原作とイメージが近いかもしれません。
個人的には、王となったマクベスに「晩餐会に出席してくれ」と
言われた後の、冷たい目というか、さげすんだような目が印象的。
そうだよね、その背景ならそういう表情しそうだよね。

今回一番目を奪われたのが、レディ・マクベスを演じた淺場万矢さん。
さいたまネクストシアターの第一期生の方なんだとか。
まず、とにかくおキレイで、モデルさんでも全然いけちゃいそう。
あとは声がとてもいいんです。動きも舞台向きって感じ。
登場は入浴シーンです。
ネコ足のバスタブに泡だらけで入浴しながら、手にはiPadを持ち
マクベスからのメールを読みマクベスの帰還を待つレディ・マクベス。
その時のBGMはテーラー・スイフトのShake It Offでノリノリ(笑)。
途中でバスタブから立ち上がっちゃったりして、ビックリですよ。
体に泡が一杯ついているとはいえ、上半身はまっぱでしたから。
※で、この時に凄いトラブルが起きて、舞台は中断します(笑)。後述。

レディ・マクベスは「強欲」というより、欲深いセレブっていう
印象の方が強いのですが、この公演においてはこれが正解かな。

この後「晩餐会」のシーンがあり、事前に“招待”されていた私達は
プラスチックのカップ(ワイングラスっぽいやつ)に入った
ドリンクが順番に配られ、一緒に乾杯。
レディ・マクベスも乾杯して回っていたので、期待したのですが
私は残念ながら別のスタッフさんとの乾杯でした(笑)。
ちなみに「ソフトドリンクです」と書かれていたので、せっかく
だから(?)、ちょっと飲んでみましたけど、限りなく水でした(笑)。

本当に忠実に「マクベス」が進行していきます。
そして、”ヴァーナムの森”が動き始め、帝王切開で生まれた
マクダフが銃を構え、マクベスに迫ります。うむ、原作通り。

と思ったら!

「ババアの言う事は信じないぞ」マクダフに「地獄行きだ」と言うや
否や、あっさりマクダフが撃たれてしまいます「なんで?」って
声を残したまま。えっ、どういう事?と思う客席の想いを置き去りに
芝居はどんどん進んでいきます。
いや、正確にはレディ・マクベスを診察した医者が、彼女の独り言を
聴いてしまった後、マクベスにサックリ撃ち殺されちゃうんですよね。
あんなに、割と気弱な感じだったのに、すごい思い切りよくて。
その辺りから、「あれ、これは?」と言う気持ちはしていたんですけど。
マクベスの周りにいた臣下達が躊躇いながら拍手をすると、
マクベスがマイクを持って話し始めます。
「親殺しの犯人は王子マクダフだと、“閣議決定”します−」
・・・思わず私を含めて周りの客も笑っちゃいます。
「バンクォー殺害の犯人は、息子フリーアンスだと、“閣議決定”する。」
「私や妻がダンカン王殺害に関わっていない事を“閣議決定”する。」
その後、「私や妻が殺害に関わっていたなら、国王を辞めたいと思います」
・・・またここでも笑いが起きます。

なんて事(笑)!
どっかで最近きいたセリフのオンパレードじゃないですか〜。
そこで、色々な事が結びついてくるわけですね。
なぜ、服がスーツでデジタルデバイスを持っているのか(マクベスは
某首相のメタファーだから)。このマクベスは政治家のメタファーだから
勇猛果敢な軍人である必要も無いんですね。
で、マクダフが死ぬときの「なんで・・」と言う言葉は、国民の声という訳か。
てことは、あの「晩餐会」は桜を見る会だったって事かしら!?

王殺しのマクベス夫妻は、犯罪とは関係ないと閣議決定され、
心を病んでいたはずのレディ・マクベスもにこやかに登場。
こんな「ありえねー」と言う展開が、現代でも起きていますよ、という
谷さんの強烈な皮肉の効いたマクベスでした。

いやいや、面白いし、すごい発想だと思うし、ビックリしたけど、
これ、面白がって笑ってちゃダメなやつだよね。
谷さんすげー、と思いながら、こんな話が成り立つ国ってどうよ?!と
思わされたりもしたのでした。
でも演劇でなければできないよね、と思うし、シェイクスピアの事を
良く知っている谷さんだからこそ、出来るんだよね、とも思うし
原作を損なわずに90分に収めたのも凄い、と思う作品でした。

https://twitter.com/playnote/status/1208664009026625542


※この日のトラブル。
レディ・マクベスが登場する時に入っていた浴槽の下から、水がすごい
勢いで流れ出していたのです。登場してから、すぐ気づきましたが
「演出かしら?」とも思ったんですよ。
まるで、彼女の悪意がジワジワと広がっているように、真っ黒い舞台上に
大きな水たまりが広がっていくのが、見事でしたから。

ただ、これ・・・いつ掃除をするんだ?休憩ナシだよね?とも思うし
途中で侍女役の人がバスタブの中に手を突っ込んでも、水は止まらないし
何より淺場さんが一切動じずに演技を続けているし、バスタブを片付けた
後のシーンも始まったので「やっぱり演出かな」と思った途端に客席が
少し明るくなって、アナウンス。

「上演中ではありますが、ここで10分の休憩とします」と。

・・・ちょっと待て。この日は「休憩なし90分」だったよね?
客を晩餐会の客に見立てるような演出をするぐらいだから、もしかしたら
「今から休憩です」と言うセリフなんじゃないか。このアナウンスすらも
演出なんじゃないか、と疑ってしまう訳ですよ。
例え舞台上にモップを持ったり、バケツを持ったスタッフらしき人が
一杯登場したとしても(笑)。
恐らくこの感情は私だけではなかったはず。
だって、「休憩です」と言われても、誰も席を立たないし、身動きせず
舞台を観てる人ばかりでしたから。

「ああ、本当にトラブルだったんだ」と私を含めた客席が理解したのは、
淺場さんが登場して「すみません、古い屋敷なものですから、浸水
してしまいまして」「どうぞお手洗いなど、行ってくださいませ」と
場繋ぎに登場された時ですね。
とはいえ、急に「じゃあトイレに」って言う人も少なくて、皆が
スタッフの作業を見つめ続ける・・って言う状態になりました。

するとまた淺場さんが登場。
「まだ時間がかかりそうですし、皆さんで歌でも歌います?」と
想定外のご提案(笑)。実はこの作品の為に、ドレスコーズの志磨さんが
書かれた「マクベスの歌」という曲が使われており、歌詞カードも
配られていたので、それ歌いません?と言うご提案だった訳です。
一瞬「まじかよ」と思いましたが、思いのほか皆さんノリノリでして
実際歌ってみるといい曲だったりしましたし、何よりも淺場さんが
歌がお上手で!(どうやら三味線弾きもされている方のようです)
でもその間はみんな、歌詞カードを見つめますので、スタッフからは
目線が外れて、上手いな・・とも思いました。

まあ、結論から言うと、本来漏れてしまってはいけない石鹸水が舞台に
大量に流れ出てしまうという、ハプニングだった訳ですね。
うん、確かに淺場さん、転びそうになってたわ(笑)。
でも、スタッフの皆さん、本当にめっちゃ丁寧に拭き取っていて
早く終わらなきゃ、と思う中でも、モップで水を取って、タオルで
吸い上げて、最後はキッチンペーパーで乾かす所まで、やりきっていて
その手際にも「凄いなぁ」と。

確かに舞台は中断してしまって、少し前の所から再開。
ダンカン王がマクベスの城にやってくるシーンから。このシーンは2度目
になるので、客席からクスクス笑いも起きるし、役者さんも何だか
やりづらそう。すると扉がバンと開いて、レディ・マクベスが大声で
「大変お待たせいたしましたぁ!」とご登場で、場が一気に吹っ切れ
「マクベス」の世界に戻る事が出来ました。
このトラブル対応の、分終演が遅れてしまったので、私は終演後の
アフタートークを諦めざるを得なかったのですが、トラブル時の
スタッフワークが目の前で見られたり、なかなか得難い経験が出来た
ので、これはこれで満足した回でもありました。