去年は11回も通った豊橋のPLATですが、やっと今年初PLATです(涙)。
入場時の検温もきちんとやっているにも拘らず、入場は30分前なので
(今はほかの劇場は45分前が多い)入り口は混雑していました。
他の劇場ではここまで時間を取られないんだけどなー。

ひとよ
KAKUTA第29回公演「ひとよ」
穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホールF列
13:00開演、15:20終演(終演後アフタートークあり)
作・演出:桑原裕子
出演:渡辺えり、桑原裕子、成清正紀、若狭勝也、異儀田夏葉、多田香織、谷恭輔、酒井晴江、高橋乱、荒木健太朗、久保貫太郎、小林美江、まいど豊
【あらすじ】
寒い夜に、タクシー会社を営む稲村家の母・こはるは、夫を殺めた。それが、最愛の子どもたち三兄妹の幸せと信じて。そして、こはるは、15年後の再会を子どもたちに誓い、家を去った—。時は流れ、次男・雄二、長男・大樹、長女・園子の三兄妹は、事件の日から抱えたこころの傷を隠したまま、大人になった。15年後の夫の法要の夜、そんな一家に母が帰ってきた。皆が願った将来とはちがってしまった今、再会を果たした彼らがたどりつく先はー。



PLATはまだ1席とばしですが、退場については規制なし。
劇場によってスタンスは色々なんですね。
既に収容率80%で両脇に他のお客さんが入っている状態での観劇を
経験していますが、両隣が空いていると、やっぱり気持ち的に
ゆったりできますねー。





この「ひとよ」は割と最近映画化されていて、「もう、くどいわ!」
と言いたくなるほど、劇場で予告編を観ておりますので(単純に私が
劇場で映画を観る本数が多いだけなんですけどね)、初演・再演も
観ていないんですが、何となくストーリーが分かっている・・という(笑)。
ただ、映画版での「母ちゃん」役は田中好子さんだったはず。
この作品での「母ちゃん」は渡辺えりさんですから、イメージが全然違う。
その辺りがどうなんだろう・・・と思って観に行きました。

腕を三角巾で吊った次男、頭が包帯でぐるぐる巻きになっている長男。
あれ、喧嘩でもしたのか?と思っていると、長女も顔にけがをしている。
そこに「母ちゃん」が帰ってきて、衝撃的な告白。

「母ちゃん、父ちゃん殺したから。」

どうやら父親はDV野郎のようで、子供たちの怪我の原因らしく、
見かねた母ちゃんが父親を「うっかりバックする時に轢いた体」で
殺したと。でも決して衝動的な犯行ではなく、姑が亡くなるまで待ち
(姑が悲しむといけないので)、子供が進学するタイミングを待った・・と。
会社の今後、子供達に今後どう生きるかを指示した後で
「何年服役するか分からないけど、15年後に戻ってくるから」と
いう所までがオープニングです。
もう、ここまでで渡辺えりさんにガッツリ持って行かれる感じ。
お握りをガチで2個も食べながら話していて(笑)、大変そう・・と
思いながらも、非日常な事が起きた時には敢えて日常的な事を
やっちゃうもんだよね、という事を思い返したりします。

次の場面は15年後。
父親の法事があった夜。母ちゃんが言い残していったように、会社は
親族が守って存続している。会社のドライバーには長男の友人だったり
漁師をしていたという出自がよく分からない男性、若い女性がいる。
長男は結婚し、次男は東京でマスコミの仕事をしているけど地元に
戻ってきており、長女はスナックに勤めている。
「15年後に戻ってくるはずだから」とソワソワ落ち着かない3人。
そして・・・約束通り母ちゃんが戻ってくる。

母親が戻ってきてどう思っているのか・・を探りながら観ていく感じ。
娘は嬉しそうだけど、息子たちは微妙な感じなんだよね。
自分達を守るために母親が犯罪者になった‥という事は理解している。
でもそのせいで、自分たちが以前のような生活が送れなくなり
人生が大きく狂った・・とも思っていて、腹立たしくも思っている。

重そうな話なんだけど、母ちゃんを追って北海道からやってきた
吉永さんが出てくると、場がほぐれる感じです。
ある意味突飛な設定な事もあってか、どうやら映画にはこのキャラは
出ていないらしい(アフタートークによれば)んですけどね、これが
成り立つのが演劇の面白いところ、っていう感じがします。
「不在だった15年の空白を埋めるため、その15年間の事を知っていて
絶対的に母ちゃんの味方っていう人を登場させたかった」と桑原さんが
アフタートークでおっしゃっていましたが、確かに彼が居たからこそ
稲村タクシーに溶け込めた、って言っても過言ではない気がする。

認知症の姑を「殺したいぐらい嫌い」と言う柴田だけど、徘徊中に
姑を亡くし「もっとスッキリするかと思ったのに・・」と泣く。
そうだよね、そういうモンだよね。
姑が亡くなったのは自分のせい、「殺してしまった」って言うのは
まさにその表れだと思うもの。
・・・なら、母ちゃんは夫を殺めた時、どう思ったんだろう。

最後の最後、長男の曲がったままの指を見て笑う兄弟たち。そして
それを見て泣き崩れる母ちゃん。この叫びをどう理解したらいいのか・・と
思っていたのですが、演出家からは「絶望のように泣いてくれ」という
指示があったそう。
もしかしたら、柴田が姑を亡くした時に感じた感覚が、15年経って
やっと子供たちを守らなければ、という義務感から解放されて
感情がむき出しになったのかなぁ・・なんて思いました。
あとは、夫を殺してもすべてを解決出来る訳じゃなかった、
という事も分かっただろうしね。

離婚した妻に引き取られた息子との関係に翻弄される中年男も
夫が好きなクセに素直になれず、重度の構ってちゃんの女も
皆が心に傷を負いつつ、全員が愛しくなるような作品でした。
個人的には桑原さんが演じた、構ってちゃんが面白いんだけど、
それと同じぐらいに何だか切なかったですね。

母ちゃんが父ちゃんをひき殺したのも夜。
柴田の姑が亡くなったのも夜。
堂下が離別した息子と楽しく食事をしたのも夜。
吉永がやって来て、そして居なくなったのも夜。
「自分にとっては特別でも、他の人にとっては何でもない夜なんです
 でも、自分にとって特別なら、それでいいじゃない?」
というセリフが、タイトルの「ひとよ」に込められているんですね。

ちょっとここでストーリーを全部追うのは難しいんですが、
非常にドラマ性が高い作品で、引き込まれて観た2時間強でした。
個人的には「母ちゃん」は渡辺えりさんで良かったな。
(まあ、そう思わせたのは渡辺えりさんの演技力所以だと思いますが)

この日はアフタートークもありまして、渡辺えりさん、大活躍(笑)。
「稽古後や本番後に飲みに行けない!」という話も何度もされて
いたのですが、えりさんの「吉永さん」の解釈がとても面白くて。
「こはる(母ちゃん)を追ってくるぐらいだから、こはるの事が
好きなんだろうと思っていたのに、全くそういうそぶりがない。
だから吉永さんはゲイなんだと思った。で、アイヌの人で、現代では
差別される側の要素をすべて抱えている象徴だと思った」と。
あの反応を見ている限りでは、桑原さんはそこまで想定して書いていない
のではないかな、なんて思ったんですが、とても興味深かったです。

KAKUTA、また観たいですね。
是非次も豊橋に来てください〜!