Serial Numberは今後も機会があれば観ていきたいと思っていましたし
何よりも今回は神野さんが出演されますから、これは観ておこう!と。

All My Sons
Serial Number05「All My Sons」シアタートラム F列(4列目)
19:00開演、21:40終演
脚本:アーサー・ミラー  翻訳・演出:詩森ろば
出演:神野三鈴、田島亮、瀬戸さおり、金井勇太、杉木隆幸、熊坂理恵子、酒巻誉洋、浦浜アリサ、田中誠人、大谷亮介
【あらすじ】
舞台は第二次世界大戦後のアメリカ。21人の若者を死に追いやる事故の原因となった、飛行機部品工場の経営者一族の姿を描く。仕事に対する考え方が対照的な父と息子。行方不明になってしまった弟。多くの命を死に至らしめた事故に対して、家庭の中に起こるひずみに対して、父はどう対峙するのか……。戦争の影が色濃く残るなかで、平凡な家族が少しずつ悲劇へと突き進んで行く。




SerialNumberは詩森さんが書く脚本を上演するユニットだ・・と
勝手に思い込んでおりましたので、こういう古典を上演する
というのが意外でした。
アーサーミラーかぁ、と思わなくは無かったのですが(別に嫌い
という訳でもない)タイミングも合いましたので、ね。



 
古典だけども、古臭さを感じない作品になっていました。
とはいえ昔からある脚本なので、SerialNumberらしさみたいなもの
については、どうなんだろうな?と思わなくもないですけど。
(まあもともと、詩森さんと田島さんのユニットなので、いろんな
形に変わり得るユニットですから、いい意味で何でもアリなんでしょうね)

舞台上手側には木造二階建ての家。アーリーアメリカン風の家って感じで、
家を出てすぐのところに折れたリンゴの木。

前夜の嵐で折れて倒れてしまった、という事だけど、この木が
家族にとっては意味のある木なんだよね。
パイロットとして戦場に行った次男ラリーを記念して植えられたもの
なんだけど、ラリーは生死不明の状態のまま・・。
その木が嵐で折れて倒れてしまっていた所。父親はその木が倒れた
事をしった妻ケイトが取り乱すのではないか、と心配する中
そのラリーの恋人だったアンが突然やってくる・・・と。

父親のジョーは事業に成功し、妻のケイトも次男のラリーは生きている
と信じ込む事で、心の平安を保ち、きっと微妙なバランスで生活を
送っていたんだろうけど、このリンゴの木とアンの来訪でそれが崩れ
ていく・・というお話です。まるでリンゴの木が封印していたものが
一気にあふれ出すように。

本当はラリーの生存を諦めているのかもしれないけど、そういう情報は
一切受け付けない、母親のケイト。
突然元婚約者であるラリーの実感に戻ってきたアンと、長男のクリスは
ラリーが行方不明になって以降、恋人同士となり、結婚を考えているが
そんなケイトの前ではそんな話は言い出せない。
クリスは「母も分かっているはずだから、ラリーの死を受け入れなければ」
と言い、アンは何故か、ラリーが亡くなったと確信している。
父親のジョーは昔「冤罪」で逮捕されたが今は事業で成功し、クリスに
事業を継がせようと考えている。妻想いではあるが、現実主義者な所もある。

現実に目を向けさせようとするクリスとアン。それを察して拒否する
ケイトに、オロオロとする父親のジョー。

この作品は「父と息子」について書かれた話だ、という記事を
読んだ事がありますが、このSerialNumber版については、新たに
詩森さんが翻訳されたり、神野さんありきの舞台だったらしい、という事
もあってか、完全に神野さんが主役になった作品でした。
神野さん演じるケイトが悪目立ちしているっていう訳ではないですよ。
観ていて痛々しくなるほどの母性。
それはクリスやラリーだけでなく、アンの兄のジョージに対しても。
あれほど頑なだったジョージも、クリスと接する中で表情が和らいでいく。
ただその「母性」は危険をはらんでいるというか、危うさもあって・・。

アンがラリーの死を確信していたのは、ラリーから遺書が届いていたから。
それを知った後のケイトがもう・・神野さん、本当に壊れちゃったんじゃ
ないかしら?って思うほど痛々しくて、観ていて辛くて、心揺さぶられ
っぱなしでした。
ちなみに、ラリーに対する父親と母親の態度の違いは、「望み」という小説
(堤さんで映画化済み)と、ちょっと通じる所がある気がしましたね。

でもこの作品は母性を問うだけの話ではないんですよね。
ジョーは本当に無実なのか、それとも過失を隠蔽しようとしていたのか。
アンの姉のジョージと同じく、「怪しい」「いや、怪しくない」と
いい感じに振り回されてしまううんです。

息子のクリスは父親の無実を信じていた、いや、信じようとしていた。
ここがお坊ちゃんな所ではあるけど、正義感が強くて、真っすぐな人だから。
だから、クリスが父親は人に罪を負わせて、罪を逃れていたんだ・・と
知った時、彼の性格を知っている父親は、ああいう最後を遂げたのかも。
しかし、罪を逃れたのもズルいけど、あの最後もズルい。
自分の罪が露呈したからって、自殺するなんて、
結局自分一人が逃げただけじゃないですか。
壊れてしまいそうな妻にトドメを刺すようなものだし、父親を死に追いやったと
負い目を感じるかもしれない息子を残して、自分だけ消えるなんて。

息子が父親に求めるもの。
少なくともラリーは、器の大きさ、尊敬できる度量を求めていて
息子の自分だけを特別扱いするのではなく、欠陥品の飛行機で命を
失った21人全部の命を自分の息子のように、尊重してくれるような人で
あって欲しかったんだろうな。クリスもそこは似ていたと思う。
でも父親は、物質的な豊かさを優先してしまっていて。
それはそれで親の愛なんだろうけど。
アメリカでも、良心と物質の豊かさを求める風潮・・みたいなものに
葛藤していた時期だったのかもしれません。

息子、父、母、恋人・・・
色々な立場の人間が居て、それぞれの想いが露呈されていく様は非常に
見応えのある作品でした。

神野三鈴さん、恐るべし。
凄い女優さんだとは思っていたけど、それを軽く超えてきた(驚)。
1回目のカテコはまだ完全にケイトのまんまで怖いぐらい。

でも2回目のカテコは神野さんに戻ってましたね。投げキッスとか
めちゃくちゃキュートで。ご挨拶もありました。

思った以上に古さを感じず、引き込まれた1本でした。
いや〜、観に行ってよかったです!