厳密には「配信」ではない・・かな。
YouTubeで期間限定公開された「パラドックス定数オーソドックス」
の中の1作で、私が観に行けなかった3作のうちの1作です。

トロンプ・ルイユパラドックス定数 第44項「トロンプ・ルイユ」
作・演出 野木萌葱
出演:山田宏平、加藤敦、井内勇希、植村宏司、諌山幸治、小野ゆたか
【あらすじ】
走れ人間。笑え競走馬。
今まで何千何万もの仲間たちがこの場所を駆け抜けた。風が吹けば砂塵が舞い上がり雨が降れば泥の海になる。そんな場所を俺は走る。
金とか欲望とかそういうことはよくわからない。
夢とか希望とかそういうこともよくわからない。
だけどコーナーを曲がって最後の直線湧き上がる大歓声の中をただ真っ直ぐに先頭を走る。俺はこの瞬間の為に生まれてきた。競走馬なら誰でも必ずそう思う。中央競馬の華やかさからは程遠い、海に臨むとある地方競馬場。突然そこにあらわれた老馬と駿馬。老い、傷つき、自身の器の大きさを知り、そして或いは過去の栄光を重く背負った、馬と人。人間の、渦巻く純粋な欲望を追い風に走り続ける馬達の、突き抜ける貪欲な疾走本能を導き添い遂げる燻り燃える命の物語。



パラドックス定数オーソドックスの中でも評判の良かった作品
と言う印象だったので、観たかったんですよねぇ。
人が馬を演じるらしい、と言う話だけは耳に入っていて
そうか、馬を演じるのは橋本じゅんさん以外にも居るのか(爆)
なんて思ったことを思い出します。
感想、簡単に書きました。




ヤバい、面白い・・・。
いい意味で、これは小劇場だから成り立った作品なんじゃないかな。
大きな劇場で上演されても、良さが伝わらない気がする。

なんか、野木さんの作品にしては珍しい感じがしますね。
キャストが男性ばっかり・・というのは、今までと変わらないですが
野木さんは密室劇というか、室内での濃厚な会話劇を得意とされている
という気がしていたので。
今回は屋外の「競馬場」だったり、「海が見える」とか、空間的な
広がりを感じさせる設定だったんですよね。

もともと「トロンプルイユ」というのは美術用語のようで、「だまし絵」
のこと(目の錯覚を利用した作品)らしいです。
人が馬になったり、馬だった役者が人間を演じたり・・と言う作品には
何だかシックリくるタイトルです。

舞台は四国にある地方競馬。
そこの近くの厩舎で育てられている馬たちと、厩務員や調教師、馬主の
お話になります。

殆どの役者さんがスーツ姿。
馬を演じるからと言って、着ぐるみを着る訳でもないし、話し方が変わる
という訳でも無くて、会話の流れやリードを付けるかどうか・・と言う点で
鮮やかに演じ分けていくのが、すごいです。
また舞台のセットも何も無い。椅子を組み上げて厩舎を表現したり・・
ぐらいで、観客の想像力と思考力を使って観る、演劇ならでは!の作品。
景色が映し出されたわけじゃないけど、何だか海を見ている馬の姿が
見えるような気がしたもんね。
途中で「これは人間かな、馬かな」と思う所もあったりするのですが
(同じ役者さんが両方演じるので)それは敢えて明確に区別をつけない、
馬と人間が重なっている事を表現したいのかな、なんて思います。

馬にもいろいろな性格が居て、自分の経歴(血筋)を自慢する馬が居たり
高齢なことをからかわれる馬がいたり。調教師との関係性が描かれていて
骨折した馬を安楽死させる時の厩舎スタッフや馬主の無念さが描かれたり。
何だかんだいっても、ここに描かれる人間はみんな馬に対して
誠実というか、一生懸命だったりするからね。
観終わった時、前向きな気持ちになれるとても充実した1本でした。

ああ、これは映像でこれだけ面白いのだから、生の舞台はどれだけ
面白かったんだろう・・と思うと、行かなかった自分を叱ってやりたい。
でも、映像でも観られ良かった、と思える1本でした。