シアター風姿花伝でマチネが終わり、次は東京芸術劇場。
エクササイズも兼ねていっそ歩いて行っちゃう?と思わなくもなかった
のですが、暗くなってきていた事、驚異的な方向音痴の私が迷わずに
開場時間までに到着できる自信もなく(全席自由だったし)。
大人しく、公共交通機関を使って移動いたしました(笑)。

プライベート・ジョーク
パラドックス定数第46項「プライベート・ジョーク」
東京芸術劇場 シアターイースト 最前列
18:00開演、20:00終演
脚本:野木萌葱   演出:野木萌葱
出演:植村宏司、西原誠吾、井内勇希、加藤敦、小野ゆたか
【あらすじ】
天才がいる。狂人がいる。だからこの世は、面白い。
二十世紀初頭の古き佳き時代。自由を掲げる学生寮で未来の芸術家
たちが暮らしていた。豊かに無意味に馬鹿騒ぎ。若さ故に才能を
持て余しながらも破天荒な共同生活は続いてゆく。
ある日、学生寮主催の講演会が開かれる。彼らの前に二人の男が現れた。
この出会いが奇跡でも悪夢でも魂の饗宴は止まらない。
プライベート・ジョーク。身内の戯れに過ぎないのだけれど。



パラ定デビューが「パラドックス定数オーソドックス」だったため
毎月のように違う芝居が上演され、私も1年に4本も観ていたので
ここまで新作が観られなくなるとは思っていなかったなぁ。
(「プライベート・ジョーク」は再演。)



 
「Das Orchester」がフルトヴェングラーをモデルとして描いているのに
敢えて彼の名前を出さないで、あくまでフィクションとして描いているので、
この作品もきっと・・と思っていましたが、事前に何の情報も入れて
いませんでした。

【学生寮に住む3人】
映像作家・・・ルイス・ブニュエル
詩人・・・ガルシア・ロルカ
画家・・・サルバドール・ダリ

【学生寮にやってくる2人】
学者・・・アルバート・アインシュタイン
画家・・・パブロ・ピカソ

がモデルになっているようでした(私ごときでは分からなかった)。
アインシュタインとピカソの親交については分かりませんが、
ブリュエル、ロルカ、ダリについては実際に同じ学生寮で暮らしていて
親交があった、という史実があるようです。
ざくっとwikiでみたところ、割と史実に沿っているような感じですね。
ちなみに「ガルシア・ロルカ」は知らないなぁ・・と思ったら、彼の作品に
「血の婚礼」がありました。

舞台は芸術家たちが住むスペインの学生寮。
そこへ講演のために物理学者と画家が招待され、そこの学生と出会います。
この5人が誰をモデルにしているのかも分からない状態で観始めましたが
まずはこのアインシュタインをモデルにした物理学者に魅了されました。
飄々としているのに、いう事が深いんですよね・・。
数字やエビデンスを重視するであろう物理学者が、芸術について語るのですが
そのセリフが素敵なんですよね。
「人類は月に行っていないけど、物語の中では既に行っている」
「芸術家は科学者の先を行く」って、そう思える感覚が素敵。

このピカソをモデルにした画家との関係性も観ていてとても心地よくて
タイプは全く違うのに、「親友同士」というのも納得できちゃうし、
長い間会わなくても、本質的に分かりあえているこういう関係、
いいなぁ・・と、何度も思いました。
この学者と、詩人の会話、もっと聞いていたいなぁと思わされました。

ゲロ爆弾を窓から投げちゃうような無鉄砲ぶりは、いかにも学生という感じで
微笑ましいのですが、年月が経って背景も変化し、その関係性も変わります。
パリに向かった画家の卵は、自我・自意識は過剰だが画家として芽が出ず
詩人は舞台の戯曲を書いても集客に苦労し、検閲で自分の表現を制限される。
パリに行った映像作家だけが、順調にキャリアを積み上げている。
もう、以前のように無邪気にじゃれあったり出来ないし、熱く芸術に
ついて語る事も出来なくなっている。
それは単にキャリアの違いだけではなく、スペインにも迫っているナチスの影
でもあって・・・。

検閲について話した後、詩人は映像作家には「映画はパリで撮れ」
「活動の拠点をパリに移せ」と言い、その後スペインに残り銃殺されてしまう。
それはそれは彼らの心に傷を残しただろうし、かといって自分を殺して
言うなりになれとも言えなかっただろうし・・・。
途中に入寮した、希望に溢れていた頃の場面が挿入されて、かなり切ない。

登場人物のモデルが分からない状態で観て観劇後にwikiで調べて後から
ジワジワときています。事前に更に彼らの生涯について分かったうえで
この作品を観たらもっと違うインパクトがあったかなぁ・・と思うと、
ちょっと勿体なかったかな、なんて思っちゃいました。

「俺は俺の絵で世界を黙らせる」その絵が「ゲルニカ」だったのかな。
「あんたが自分で雑音を引き寄せたんだ」というのは原子力の事なのかな。
相変わらず非常に味わい深い作品でした。
ただ、自分の知識不足もあって、少々手ごわい作品だったとも思うので、
できれば、もう一度ゆっくり味わいたい作品だったなぁ・・。

次の劇団公演はまだ未定の様子。
待ち遠しいなぁ。今回1年半以上開いているから、まだ随分かかるかな。
でも、きっとまた素敵な作品を上演して頂けるはず、そしてその頃には
感染の心配も無くなっているはず!と信じて、待ちたいと思います。