このお二人はちょっと私にしては異色な組み合わせ。
河内さんは色々な作品で拝見していましたし、シェイクスピア作品には
欠かせない役者さん、と言うイメージ。(カクシンハンに所属していた、
という事もあると思いますが)伊礼さんはミュージカル俳優さんですし。
過去に共演されたことがあるという事でしたが、どの作品だろう。

ダム・ウェイター
本多劇場グループnext「ダム・ウェイター」
ガス側A列(最前列) 18:30開演、19:40終演
脚本:ハロルド・ピンター   演出:大澤遊
出演:伊礼彼方、河内大和
【あらすじ】
二人の殺し屋ベンとガスは、地下室で仕事の指示を待っている。
するとそこにあるダム・ウェイター(料理昇降機)が突然動き出し、
中には料理のオーダーが書かれた紙切れが入ってる。
奇妙な指示に踊らされ、困惑する二人。これは何を意味している?
何を試されている??不可思議な時間を繰り返していた時、
そして、そこへボスからの指示が・・・



「楽園」での観劇はちょっと、お久しぶりですね。
40名程度の客席でしたが、寂しいという感じではなく贅沢な空間でした。
(でも、楽園がこんなに女性だらけになるのはちょっと「おお」って感じ)
でもどう頑張っても90席に出来るか?と思ったのですが、舞台として
使っているスペースが大きいので、余計にスカスカ感が無かったのかな
なんて思います。私もそんなに何度も「楽園」で芝居を観ている
という訳でもないですが。





今回は「ベン(河内大和)Side」か「ガス(伊礼彼方)Side」かが
選べたのですが、どちらかと言えば私は河内さんお目当てだったので、
ガスSideにて。(ベンが正面で観られる)

この舞台で事前に明らかにされいているのは以下の2つ。
・2人は殺し屋である
・この仕事が最後だと言われている
(ただ私はどちらも知らない状態で観ております。二人が殺し屋である
という事は明確には語られませんが、会話で想像つきます)

セットは部屋の1室。2台のベッドが置かれ、ステンレスの業務用っぽい
流し台が1台あり、その間の壁には小さな扉があるだけ。
(脚本はベッドは2台平行に置くことを指定しているらしいのですが
楽園の舞台の形状を活かして、直角に置かれていました)

背面の入り口の大きな戸が閉められ、まだ客電が点いている時に
黒いスーツを着た2名が普通に出てきて、それぞれのベッドに荷物を置きます。
この段階の二人の仕草が雄弁に二人のキャラの違いを表しています。
上着も拳銃のショルダーホルスターも勢いよく脱いで、ベッドの手すりに
乱雑に置き、そのままベッドにダイブし、まずはひと眠り。起きては
落ち着きなく動き回り、すぐにベンに話しかけるガス。
一方でベッドの上の皺を丁寧に伸ばし、静かにベッドに腰かけて
特に寝ることもなく、同じ姿勢のまま新聞を丁寧に読み込むベン。

そして客電が消えて、舞台が照らされるのですが、この照明の切り替えがもう
抜群で鳥肌が立ちそうでした。今まで私たちの客席と地続きだった舞台が
切り離され、別の世界にぼうっと浮き上がって見えるような、そんな感じ。

仕事の指示があるまでの待機場所と思わる地下の部屋で二人は本当に
他愛もない会話をし続けるのですが、その会話で分かってくることがあります。
・ベンが先輩でガスが後輩で、仕事でコンビを組むことが過去にもあったこと
・ガスはこの仕事に少し疑問を感じているような所があること
・今回の仕事の待機場所の待遇はいつもより悪いこと
・ベンの様子がいつもと違うこと。(仕事に向かう途中で突然車を止めたり
 今回の仕事の後での話をしようとしないこと・・・)
・いつも仕事の手順はベンがガスに口頭で伝え、それをガスが復唱して
 手順を覚える事になっているらしいこと

なぜこんなことを?とか、不毛な会話を単純に楽しんでいたのだけど、
ベンがガスに「仕事の手順」を復唱させます。
「男が入ってきたらドアを閉める。おまえ(ガス)が後ろに居る事は
感づかれないようにする。その男にはおまえが居る事は分からないが、
俺には分かる・・・。」
ガスは「おい、この流れだと俺はどこで銃を抜くんだ。今までそこを
飛ばした事は無かっただろう」とベンを問い詰め、ベンは改めて
「お前は銃を抜く」を付け加えるのだけど・・・・違和感だけが残ります。

どういうこと。
ターゲットの男が部屋に入ってきてそ男の前にベンがいて、ガスが後ろ。
でもターゲットにはガスの存在は気づかれない。
ターゲットの男はベンを見るけど、ガスの事は気づかない。
ベンはターゲットの男に銃を向けるけど、ガスが銃を抜くタイミングは
どうもあいまいなまま。
ここで思ったのは、「ガスは幽霊なのか?実は死んでたのか?」って事。

何度もダム・ウェイターから意味不明のオーダーが入る事で、少々
混乱して、ちょっと苛立っているように見えるガスは「水を飲んでくる」
と言って、別室へ。
すると上階から連絡が入りますが、どうやら仕事の指令の様子。とうとう
作戦決行らしく、「ガス!」と相棒を呼ぶが、返事はない。
暫く間があって、気づくと背面の劇場の入り口から、下着姿になった
ガスが入ってきていて、そのガスにベンが銃を突きつけた状態で、幕。

ああぁぁぁ、そういう事なのかぁ。
ガスは幽霊なんかじゃなかったんだ。
ターゲットの男がガスだったんだ。だから、ガスが銃を抜くという
手順が入っていなかったのだろうし、ターゲットの男からはガスが見えない。
今回のミッションはベンとガスの二人ではなく、ベンと誰かの二人・・
という事だったんだろう。

紅茶を返してきたこと、マッチを(しかも敢えての黄燐マッチ)差し入れた
事で何としてでもガスに紅茶を煎れるために別室に行かせようとして
いたのではないか。ベンも何度も「紅茶を煎れろよ」と言っていた。
(「ガスに火をつけろ」が暗喩になっていたような気がしなくもない)
その別室で本当の相棒がガスから拳銃などを奪い、ベンの前に立たせた・・と。

ベンの不可解な行動は、今まで仲間だったガスを殺さなければならない
と言うミッションへの戸惑い、抵抗感だと考えれば納得がいくし、
あんなに黙々と新聞読むか?とか、そんな下らないネタで大騒ぎするか?
と思ったのだけど、自分の気持ちを落ち着かせるためだったのか・・と
思えば納得もいきます。

うわ、良く練られた作品だわ、面白い。
これ何度か観ると、その都度に発見がありそうだし、ベンSideから観ると
また違った見え方になりそうで、面白かっただろうなぁ。

伊礼さんももちろん良かったけど、河内さんの思わず笑ってしまうような
キュートな演技も目が離せない。脚本をはじめとした作品そのものも
面白かったし、役者さんも堪能できたし、思った以上に充実感のある
作品でした。これを観るために1泊遠征東京滞在を延ばしたのですが、
その甲斐はあったな、と言う感じがします。
また是非こういう面白い企画をして欲しいな。

ただこういう劇場でミュージカルやるのはどうかと思うよ(笑)。
(↑ 伊礼さんが配信で「面白そう」とおっしゃっていたので)