去年の7月に豊橋で観る予定だったこの作品、コロナで中止となり
ほぼ丸々1年後の今日、実際に観れる事になりました!

外の道「外の道」穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホールD列
13:00開演、14:55終演
作・演出:前川知大
出演:浜田信也、安井順平、盛隆二、森下創、大窪人衛、池谷のぶえ、薬丸翔、豊田エリー、清水緑
【あらすじ】
同級生の寺泊満と山鳥芽衣は、偶然同じ町に住んでいることを知り、二十数年ぶりの再会を果たす。しかし二人には盛り上がるような思い出もなかった。語り合ううちに、お互いに奇妙な問題を抱えていることが分かってくる。寺泊はある手品師との出会いによって、世界の見え方が変わり、妻が別人のように思えてくる。新しい目を手に入れたと自負する寺泊は、仕事でも逸脱を繰り返すようになる。芽衣は品名に「無」と書かれた荷物を受け取ったことで日常が一変する。無は光の届かない闇として物理的に芽衣の生活を侵食し、芽衣の過去を改変していく。二人にとって、この世界は秩序を失いつつあった…。



たぶん、今年初めて、久しぶりのPLATです。
前日からの雨も上がり最寄り駅に着いたら「豊橋〜伊奈、雨のため運休」
と貼り出されており「まじか!」と。(この時点で8時30分)
そこでJRを検索しても運休中、新幹線も運休中。
最悪・車で行くのは?と思って調べても東名高速が通行止めっぽい。

・・・・詰んだ・・・。

一般道で豊橋に車で行くって言う選択肢が最後に残されたのだけど
さすがにそれは遠慮したい。
そこで、天気予報を確認すると、東三河もほぼ雨は上がっている様子。
であれば、あと2時間もあれば何とかなるでしょう‥と思い
ジムに行っていたら、10時45分に運行再開との告知。
いやー、1年待って、こんな結末で観劇できないなんてアリ?と思ったので
何とかなって本当に良かったです。








イキウメらしい作品というよりも、哲学を専攻していた前川さんらしい
練られた作品だったな、と思います。SFと言うよりも哲学。
ドラマ性、ストーリー性を楽しんだり、理解して正解を得ようとする
と言うよりは“感じる”舞台だった気がします、少なくとも私には。

正面には摺りガラスの窓から光が入っていて、どういう場所かは分からない
けれど、椅子がたくさん置かれた場所。
そこに、上手にあるドアから一人ずつ入ってきて、椅子に座っていくんだけど
その据わる場所とか、座っている様子が一人ずつ違っていて、その背景
(どんな人かな、向かい合っている2人は何か関係性があるのかな・・とか)
を想像しちゃったりしたんだけど、まずこの光景とライティングが美しく
絵のようで、その絵も何か悲劇というか悲しさが漂っているようで
見とれてしまった。あとドアが歪んで取り付けられ居ていたのを覚えてる。

そんな中、幼馴染の二人が偶然に出会う。池谷さんと安井さん。
えーっとこの二人が同級生ですか?と最初は思っちゃったんだけど
違和感が無くなっていくのが凄いよね、と思う。
この舞台は主にこの二人の会話が中心で、残りのキャストはちょっと
出番が少なかったりしたのが残念なんだけども。

池谷さんが演じる山鳥芽衣の元に、ある日商品名に「無」と書かれた
ダンボールが届けられてから、家に「無」というか暗黒に侵食されてしまい
居ないはずの「自分の子供」が現れる。
安井さんが演じる寺泊満は、たまたま見た手品師の手品を見て、その
タネ(物質の隙間を通過させる)を聴き、以前にパーティー会場で
亡くなった男性との関連性に気づいてしまう。

どちらも私からしたら荒唐無稽だし、「は?」と言う内容なんだけど
彼らにとってはそれが「現実」であり、“信じる現実”が違う人達とは
話がかみ合わなくなっていく。
確かにそんな事ある訳ねーじゃん、とは思うし、例えばある種の
メンタルヘルス不全(統合失調症とか)の方って、物事がこういう風に
見えるのかしら?と思ったりはするんだけど、実際に舞台が真っ暗闇に
鳴ったりすることを経験する事で、山鳥の経験を疑似体験する事も
出来たりして(あの真っ暗な中に居る感覚は生の舞台でなければ
実感できない)受け入れは出来ないんだけど、ああ、この人たちは
こういう風に見えているんだろうな、こういう見え方に変わったのかな
と推測は出来るような気がしてくるんですよね。

彼らの世界は特殊過ぎるけど、「見え方」の違いから起きる
様々な事象は私達の現実にもいっぱいあるし、それらが様々な
摩擦の原因にもなっているよなぁ、等と思ったりもしました。

安井さんが「この舞台を1日2度やるのは疲れる」と呟かれていて
フーンと思っていましたが、これ、本当に安井さんが削られる作品
だろうな・・と思うし、安井さんだから成立したんだろうな、とも
思いました。取り乱していく際のかき乱された髪も表情も全然
違うし、でもその中で「いかに誤配が素晴らしいか」を語る姿は
飄々としていて笑いも誘ったりしていて、その塩梅が抜群でした。

私はドラマ性の強い作品の方が好みではありますけど、これは
やはり劇場で観て、体験してこそその醍醐味が伝わる作品でもある
事は間違いなく、いい経験が出来た作品です。
大学でも哲学だけは苦手で成績も悪かった私ですが、観念論や実在論
について詳しい方がご覧になったら、もっと深い考察ができる
んじゃないかなぁ・・とも思いました。
個人的にイキウメは1公演3500円ぐらいで観られた頃(2009年)から
応援し続けてきた劇団なので、地元でこんな大きなホールで
公演出来るようになるなんてとても感慨深いです・・・。