「ピーターパン」そのものを観たのは結構前。
橋本じゅんさんがフック船長だった時ですね。
そのピーターパンの翻案ものだとか。

ウェンディ&ピーターパン「ウェンディ&ピーターパン」オーチャードホール2列
18:00開演、20:55終演
脚本:エラ・ヒクソン(J.M.バリー原作より翻案)
演出:ジョナサン・マンビィ
出演:黒木華、中島裕翔、平埜生成、前原滉、富田望生、山崎紘菜、新名基浩、田中穂先、中西南央、下川恭平、本折最強さとし、井上尚、坂本慶介、保土田寛、宮河愛一郎、原田みのる、乾直樹、近藤彩香、浜田純平、渡辺はるか、玉置孝匡、石田ひかり、堤真一
【あらすじ】
1908年のロンドン。ダーリング家の子供部屋。ウェンディ(黒木華)、ジョン(平埜生成)、マイケル(前原滉)、そして体の弱いトム(下川恭平)は戦争ごっこをしながら部屋中を飛び回っている。そこへ両親であるミスター&ミセス・ダーリング(堤真一、石田ひかり)が入ってくる。家族が揃った姿は幸せそのもの。その晩熱を出したトムを医者に診てもらうも、診立てはあまりよくない。やがて皆が寝静まった遅い時間に子供部屋の窓からピーター(中島裕翔)がやってきてトムを連れ去っていく・・・。それから1年後のある日の夜、子供部屋の窓が開き、再びピーターパンが現れる。驚くウェンディはジョンとマイケルを叩き起こし、トムを探すためにネバーランドへとピーターたちと共に旅立つのだった。

 

オーチャードホールに前回行ったのは2009年なので随分前。
わー、こんなに広いホールだったんだ・・・という事にちょっとビックリ。
中島君が出ているという事もあってか、若いお嬢さんがオシャレして
一杯集まっていたのがちょっと微笑ましい(笑)。








セットはダーリング家の子供部屋で、ベッドが上手下手で3台あって
何だかとても賑やかな感じ。
おとぎ話そのもの、というセットにまず心が躍ります。
なんかこんな作りこんだセットを使った舞台を観るのは何だか
とても久しぶりだなぁ・・・という感じ。

「ピーターパン」はもう何年も前、橋本じゅんさんがフック船長を
演じると聞いて、ちびっ子たちに交じって中日劇場で観劇をしました。
あの時は3幕モノで、客電が明るくて、子供が飽きないように、怖がらない
ように・・と配慮されていて、「ああ、子供向けだな」と思ったものです。
だから今回「え、堤さんがピーターパン?」って思ったのですが、
そもそも「ウェンディの立場で書かれた」作品という事なので、私が観た
ピーターパンと全く同じ話ではないんですよね。
「あれ、ピーターパンってこんな話だっけ?」と記憶に自信が無くなったり
「そうそう、こういう話だったよね」と思う所が入り乱れていました。

何だかとても「今っぽい」。
ウェンディの立場で書かれている、という事もありますが、とても
ジェンダーに対して意識して描かれていると思います。
「ママが料理をしたりして、子供たちの面倒をみる」のが当たり前だったり
戦いには女の子達は参加できなかったり。
そもそもネバーランドには女の子は居ないじゃないですか。
ダーリングも石田光さん演じるお母さんは専業主婦みたいですし。
冷静に考えると今の感覚だと確かに「おおぅ・・」なんですよね・・。
私の知っている「ピーターパン」って、価値観がちょっとジェンダーの面では
古いのかもしれないんですね。

でもこのウェンディはその「なんで男の子ばかり?」という点に気づいて
声を上げ、自ら行動に移してていきます。

そのウェンディを演じたのが黒木華ちゃん。本当にピッタリでしたね。
ちゃんと12歳に見えたもん。
自分が姉だったので、これぐらいのお姉ちゃんが弟のために張り切ったり
お母さんのマネをしてみたり・・・ってあると思うんですよね。
そんな感じも上手く出ていたと思います。
あと、ロストボーイズ達にいろいろ言われてブチ切れ
「物は、自分が置いたところにあるの!」って言うあたりがもう・・
めっちゃ“あるある”で笑っちゃったわ。
ドレス姿も可愛かったし、自宅に帰ってから「ああ、少し成長したな」
って思わせてくれる演技も良かったです。

ピーターは中島裕翔さん。
ちょっと仕事絡みでご縁が無い訳でもないので(個人的に知ってる訳
ではないです、もちろん)この方がジャニーズの方だという事は
存じ上げております(グループ名はよく知らん)。
まあ背も高くてスラっとしてて、舞台に映えますよね。
演技が上手いかどうかは私には分かりませんが(下手じゃないと思うが)
正直、ピーターにはピンと来なかったです。
ピーターにはちょっと「大人」感が強すぎたというか。
ビジュアル的な問題ではなくて、「物わかりのいい大人」の雰囲気を
感じてしまったんですよねぇ・・・。中島君ご自身の人柄が透けて
見えちゃった感じというか、「一生懸命やってる」感がしたというか。
ただそのギャップが今回の作品の肝かもしれない(大人になりきれない
子供)なあ・・とも思ったりします。
でもフライングの美しさはさすがでした。

今回めっちゃ良かったのは黒木華ちゃんとも一人、ティンクを演じた
富田望生さんですね。言い方は失礼かもしれないですが、あまり
体格的にもティンクのイメージではないんですが、めっちゃこの作品で
爪痕残してます。以前観た時もインパクトがあったけど、その時は
新人が全力出してます、っていう感じだったけど、今回はそんな感じ
ではなくて、本当にこのキャラを狙って演じてる感じ。
可愛げが無いけど、でも健気で、つい応援したくなるティンクでした。

今回のお目当て堤真一さんはウェンディ達の父親と、フック船長の二役。
ウェンディの父親は、ちょっと情けない残念なパパなんだけど、
最近はこういう役も増えてきましたねー、と思います。
そしてフック船長は、私の知ってるフック船長とは一味違ったな。
ジェンダーについての視点と、フック船長の描き方がこの作品の
肝なんだろうな、と思いました。何だか殺されるの可哀そうになっちゃったもん。
フック船長にも子供時代があったんだろうな・・と思わせるし、
フック船長自身もピーター達と接しながら、自分の昔を投影しているのか
と思えるようなところがありましたね。
そんな繊細な所を堤さんがバッチリ演じていらっしゃいました。

居なくなった(死んでしまった)トムを連れ帰る為に必死に頑張った
ウェンディが、「連れて帰れない」事を理解するのが、大人への一歩であり
最後のピーターの様子も含めてちょっとほろ苦な作品でした。

非常に堪能できたのですが、残念なことが2つ。
お隣の席の方が結構頻繁に咳き込んでいて、このご時世なので
気になって仕方なかった事。
そして最前列で観られた事は有難いのですが、ステージの高さがあるし
映像も見づらいので、もう少し後ろから見たかったな・・という事。
2点目はちょっと贅沢な悩みですけどね(笑)。
ジョナサン・マンビイの作品は硬派なものが多いイメージだったので
ピーターパン?と思ったけど、観終わってちょっと納得したのでした。
最近は小劇場の作品を観ることが多かったけど、こういう大きな劇場で
観る醍醐味が味わえる1本でした。