オフィス コットーネが行っていた大竹野さんの作品の上演
(没後10周年)のうちの一つだったのですが、2020年は
コロナ禍の為に上演が中止となり、やっと2022年になって
上演される事になりました。

サヨナフ「サヨナフーピストル連続射殺魔ノリオの青春」シアター711 A列
14:00開演、15:45終演 ※アフターアクト「姉」編
脚本:大竹野正典  演出:松本祐子(文学座)
出演:池下重大、清水直子、水野あや、本間剛、吉田テツタ、小野健太郎、深澤嵐、辻親八
【あらすじ】
ある夜、ある男が初めて自分で借りた中野の部屋に、4人の客がやって来る。ホテルの警備員、八坂神社での警備員、名古屋のタクシー運転手、北海道のタクシー運転手・・・。戸惑う男を尻目に、その男の母や姉は客たちをもてなそうとする。「その男」は1969年、連続ピストル射殺事件が起こした永山則夫だった。その4人と永山の関係は?タイトルの「サヨナフ」は永山則夫の母親がカタカナしか書けず、置手紙に「サヨナラ」と書いたつもりが「サヨナフ」になってしまったのだとか。



大竹野さんの作品なので、実際に起きた事件の舞台化だろう
とは思ったのですが、さすがに私が生まれる前の事件なので
この連続射殺事件の事は知りませんでした。
事前にwikiで「永山則夫」という人について、ざっと情報は仕入れて
行ったのですが、なかなか・・・な人生を送った方のようで。


しかし、オフィスコットーネ以外では大竹野さんの作品を拝見する
機会って殆ど無いんですが、逆にここではたくさん観られるので
これで6本目・・・かな?
ここの作品は演出家が必ずしも同じ方とは限らなくて、色々な
演出家さんが手がけていらっしゃるのですが、何故か全てに通じる
空気感があるのが不思議だな・・と思います。
(unratoも独特の空気感はありますが、あそこは演出家が同じなので
ある意味必然だと思いますしね)





舞台は限りなく素舞台に近く真っ黒ですが、床に線が引かれている・・
と思ったら、亀裂が入っている状態になって、下から光が当たって
線が入っているように見えたんですね。
オープニングは小室等さんの「雨が空から降れば」でしたね、たぶん。

そこに冴えない感じの男性が一人膝を抱えて独白します。
ここが「東京都中野区若宮二丁目」でこの男性が初めて自分で借りた
アパートであるらしいことを語るのですが、そこは自分の部屋なのか
僕が僕である理由がよく分からない・・と言うような事を語ります。
・・・これ、不条理劇でしたっけ・・・。

するとアパートにどんどん客がやってきます。
名古屋のタクシードライバー
北海道のタクシードライバー
プリンスホテルの警備員
八坂神社の警備員
みんな、永山の事を「永山先生」と呼び、顔見知りっぽくて、
会った時の事を話したり、「あの時は失礼しました」と詫びたりする。
永山はよく分かっていない様子。そしてみんな揃って、
「日本を共産主義に変革するための資本主義撲滅運動の会」の集会案内が
送られてきた、と手紙を差し出してきます。
お姉さんやお母さんも出てきてこれらのお客をもてなすのだけれど、
永山だけがどうにも納得がいっていない。

あれ、私は何の舞台を観ていたんだっけ・・・と思う、最初の数十分。

でも、話が進むにつ入れて、真相が分かってきます。
実は、この「4人」はすべて永山が射殺した人達だったんですよね。
(もう少しきちんと事件の概要を掴んでいたら、ピンときてたんだけどな)
そして、笑顔で客をもてなしていた姉は心を病んで入院してしまっていたり
母親は子供を置いて、DV夫から逃れるために青森に帰ってしまったり・・と
決していい親子関係ではなかった様子。

どういう生い立ちで、どういう社会人になって、連続射殺事件を
起こしていくまでの流れが、何というか・・・すごく怒涛の展開で・・。
それはきっと、永山本人にとっても、そんな感覚だったんじゃないだろうか。

この永山少年は、もっと家族に必要とされた実感があったら、
もっと自己肯定感を持てるような育ち方をしてしたら・・と、
思わずにはいられない。
確かにものすごい勢いで職を転々として、「こらえ性のない男」という
表現が当てはまる感じではあるけれども、どれも「相手かから悪く思われて
いるんじゃないか」という思い込みで(実際に悪く言われた事も皆無では
無かったようだけど)その場から逃げてしまう・・を繰り返している
というようにしか見えなかったんですよね。
ただ、犯行を犯したときの永山は19歳らしいので、そう考えるとまだ
半分子供のようなものだしなぁ・・・とも思ったり。

逮捕されてからは自分の犯した罪や、遺族に対する贖罪の念もあった
ようですし、きちんと教育が受けられていれば(獄中で作家デビューして
賞も受賞するほどですから)全く違う人生が開けていたはず。
時代が悪かった・・と言う側面もあるかもしれませんが、何だかとても
苦いものを噛んだような後味の悪さを感じたのは、「それは過去の事件であって
現代じゃ起きないでしょ」とは言い切れないと思ったから。

ただ、学校もちゃんと通ったわけではないけど、文学賞を取るまでの
作家になって、印税を寄付に充てるなんて、そりゃ作家的には描きたい
興味をそそられる人物だっただろうな、とは思いました。
個人的には「自分は資本主義の犠牲者なんだ」という主張に関しては
あまり同意いたしかねますがね。

こういう作品を観ると、つい感想が作品の内容に偏ってしまうのですが
それだけ没頭できるほど役者さん達も素晴らしかったです。
特に女優陣が凄かったなぁ。
「母」を演じた水野さんが特に凄くてね・・・。
素朴で子供思いの老婆っぽい雰囲気を醸し出していたと思ったら
何度も住民票の件で連絡してくる則夫を疎ましく思っているような
表情を見せて「お金送ってください」という所は、何だかこの人の本音を
垣間見たような気がして、ちょっと怖かったし・・・。

そして、終演後はアフターアクト。
私が観た時は「姉」のアナザーストーリーでした。
姉役を演じた清水直子さんの一人芝居。これもすごかったですね。
(アフターアクトの部分はJACROWの中村ノブアキさん作)
貧困家庭で母がわりで家事を担ってきた少女が、心のよりどころに
していた婚約者と大学進学の夢。
それが打ち砕かれ、堕胎し、精神病に入院して・・なんて、これ、
永山則夫よりも辛い人生なんじゃないの?と思わずにはいられなかった。
もちろん永山則夫にも斟酌すべき点はあると思うけど、彼のパーソナリティ
によるところも多いと思うんですよね。
このお姉さんは、何だかもう、救いようが無いっていうか・・・。
でも、精神を壊してしまったほうが、現実を直視せずに済むので
もしかしたら幸せだったのかしら、なんて思ったり。
ますます、どよ〜んとして劇場を後にしたのでした(笑)。
(舞台作品として、とても見応えがあった!という事です)
「母」のアナザーアクトも観てみたかったし、母親の言い分もちょっと
聞いてみたかった気がするなぁ。

次のコットーネは大竹野さんではないみたいですが、次もまた
ぐったりしそうな(笑)、めっちゃ重そうな作品で、絶対観たいと
今から期待しております。