「奇蹟」とセットなら観られるじゃん!と思ってチケットを取った1本。
色々と不安はあったけど、黒木華ちゃんを観たくてね。

もはやしずか
「もはやしずか」シアタートラム 最前列 18:00開演、20:00終演
脚本・演出:加藤拓也
出演:橋本淳、黒木華、藤谷理子、天野はな、上田遥、平原テツ、安達祐実
【あらすじ】
康二と麻衣は長い期間の不妊に悩んでいる。やがて治療を経て子供を授かるが、出生前診断によって、生まれてくる子供が障がいを持っている可能性を示される。康二は過去のとある経験から出産に反対するが、そのことを知らない麻衣はその反対を押し切り出産を決意し…。




センターに舞台が設置されていて、両方から観られる形になっている
というのはいいんですが、セットがダメ。
客席と垂直な位置にシステムキッチンとかが2列並び、奥にはソファ。
もうね、奥が全く見えないの。腰高のシステムキッチンの奥、
それより低い位置にあるソファーやテーブルが見えるわけない。
また私の場合は最前列だったから特にダメ。
(センターや中盤以降の列ならば観えたんじゃないかと思うけど)

芝居が始まれば、辛うじて顔は見えるかな・・という感じですけど
顎より下が全く見えないんですよね。 
私の対角線の位置に座っていた方はラストシーンが見えないから
訳わからなかったんじゃないだろうか?

これ、開演する前に気づかないはずがない。

なのに、こういうセットにしたっていう事が信じられない。
(つまり、「観えない人が居ても、これぐらいならいいよね」と思って
決行してるって事でしょう?)
たまたま前に座った人の座高が高くて見づらい・・って訳じゃない。
お金を払って観に来る人に対する誠意が感じられないんですよね。
それ以外にもちょっとこの作品に関しては「不誠実だな」と思う事が
あって、個人的に、もともといい印象がなかったという事もありますが。







ある夫婦(安達祐実、平原テツ)が子供について園に相談に来ている。
この子供は自閉症であるという事が分かったので、その子のために
取ってもらえる対応などはあるか、という相談だった。
ただ、担当の保育士は「特別扱いになってクレームとなる事もある」
だったり「教育である程度はこちらの言う事を聞かせられるものだ」と言い
「結局は愛情ですよ」という、分かったような、分からないような会話で
(要するに「何も出来ないし、何もしない」)その場は終わる。

場を移して、彼らの自宅では朝、その子供がグズってこのままだと
お迎えのバスに間に合わない!という状態になり、母親はいらいらして
夫にも子供にも当たり散らしてしまう。
そんな中子供は兄(橋本淳)と一緒に家を出てしまい、気づくと
その兄は服を血で真っ赤に染めて一人で戻ってきた−という、何とも
ヘビー級な幕あけでのスタート。

最初でコレだから、今後どうなっちゃうのよ・・と思うと、場面が変わり
若い夫婦の朝ご飯の光景。さっきまでのギスギスした感じも無い代わりに
何となく微妙に噛み合わない夫婦の会話が交わされる。
夫はあの服を血だらけにして戻ってきた兄。妻は黒木華ちゃん。
夫はクリエイティブ系の仕事をしているらしく、やや気が利かないところが
あるかもしれないけど、家事にも協力的。
妻は子供が欲しくてたまらなさそうだけど、夫はそこまででもないらしく
不妊治療を継続するかどうか・・で意見が分かれて、やや険悪な雰囲気。

ここまでなら、別にどうという事は無いのだけども、夫が出掛けると
妻は電話をかけ始めるのだが、相手はTwitterで見つけた精子提供者らしい。
このエピソード、割と最近裁判になったやつ、そのまんまじゃん・・。
まあ、実際の裁判ではその精子提供で子供を授かるのだけど、この舞台では
結局破棄してしまい、無事に夫の子供を妊娠するのだが・・・

夫が、提供された精子の入っていた容器が捨てられているのを見てしまう。
妻は、出生前診断で生まれてくる子供に障害がある確率が5割と言われてしまう。

もう・・・黒木華ちゃん、大嫌いになりそうなぐらい、嫌な女度MAX。
論理的に話しているように見えて、正論で相手が答えられないと分かってて
答えをグイグイ迫って来るし、言葉尻を捉えて詰めてくるし、夫が
論理的に会話しようとすると感情を爆発させて会話を打ち切っちゃう。
これさー、一応自分も女だから、全く自覚が無いとは言わないのよ。
こういう状況になっちゃう(自分でも止められない)事ってあるのよね。
ただ、これを男性の作家が書いている、という事にちょっと驚いたんだな。
加藤さん、女の人に同じような感じで攻められた事、あるんじゃないの?って。

ただ冷静に考えて、子供が欲しいからって、Twitterで精子提供者を
探されたら、ダンナだってそりゃ嫌でしょ。(しかも黙って!)
そりゃ「自分の子供か?」って思うよね。
そして、子供に障害があるかもって言われて、何故すぐ自分に相談
してくれないんだ、って思うだろうし、「もし障害があったら」って
想定して話すのは当然なのに「決めつけないで!」って泣き叫ばれて
挙句の果てには離婚されて。
で、子供が生まれたら「やっぱり父親が居たほうがいいと思う」って
旦那の両親から攻めていくって、どうかと思うよ。
「写真みたらきっとかわいいと思うから」って、相手の気持ちなんか
全く考えてない。

そもそも「なぜそう思うの?」って会話ができていれば、子供の頃に
障害がある弟が居て、目の前で死なせてしまった事がトラウマになっている
って話せたんだと思うんだよね。

価値観のすれ違いと言ったらそれまでなんだけど、何だか敢えて
全てをすれ違うように作られたお話、って言う気がしてしまう。
黒木華ちゃんを「本気で腹が立つ」と思う程、演技は素晴らしかったし
橋本淳さんも熱演していたけど、そもそもこの二人は何で夫婦に
なったのかしらね〜という程度には、夫婦感が薄かったかな。
あ、平原テツさんも素晴らしかった。
包丁を持ち出すシーンとかね、本当に父性を感じたのですよ。
ある意味、一番普通な人ってう印象の方でした。

しかしあのラストシーンはどう解釈したらいいのかなぁ。
どうやらラストシーンは開幕して比較的直ぐに変わってしまったらしく
私が観たのは、変わる前なのか、後なのかも分からないんですけど。
加藤さんの戯曲はいつも、ぶん投げて終わるな・・という感じ。


この作品、とても評判が良かったみたいですね。
ただ私はなぜそこまで評判が良かったの?と思った派です。
これはもちろん、「舞台が見えないんですけど」という
ネガティブな気持ちで観始めた事も影響があるとは思いますが
たぶん、加藤さんの作品が合わないんだと思います。
色々問題提起もあったり、考えるところもあったり、腹も立ったり(笑)
したんですけど、つまり・・?という所で終わっちゃった感じ。
ま、作風の「合う」「合わない」ってあるよね・・・という事で。