劇団チョコレートケーキがこの夏にシアターイーストとシアターウエストを
ジャックして、6作上演する・・という、正気ですか?という企画。
もちろん全部観られるならそうしたかったですが、遠征組ゆえ、
「観たことが無いもの」と考えて、こちらをチョイス。

戦争六篇「追憶のアリラン」シアターウェストD列(最前列)
脚本:古川健    演出:日澤雄介
出演:浅井伸治、佐藤誓、辻親八、大内厚雄、原口健太郎、佐瀬弘幸、谷仲恵輔、菊池豪、渡邊りょう、林明寛、小口ふみか
【あらすじ】
1945年8月、朝鮮半島は35年の長きにわたる日本の支配から解放された。喜びに沸く半島で、在朝の日本人は大きな混乱に巻き込まれた。拘束され、裁かれる大日本帝国の公人たち。罪状は[支配の罪]。70年前、彼の地朝鮮半島で何が起こったのか?一人の日本人官僚の目を通して語られる『命の記憶』の物語。


両方とも同じポスター
シアターイーストでは「帰還不能点」上演中。
両方とも同じポスターってすごくレアな光景だよね。

「追憶のアリラン」はコロナ禍で過去作品を期間限定でネット配信を
してくれた時に拝見しました。


なので最初は「一応観たことあるしな・・」と思ったんですが
やっぱり生でも観ておきたいよね、と思って。






セットは前回と同じですし、キャストもほぼ同じ(劇団員としては
浅井さんしか出演していないので、西尾さんが出演されていません)。
でも「あこれは西尾さんだったな」って明確に分かるって事は
ある程度アテ書きに近かったのかもしれませんね。
劇チョコはアテ書きしないとは聞いてますけど。

この作品は、朝鮮総督府地方法院検事局に検事とて着任してきた
豊川千造(佐藤誓)の回想がメインのお話です。
当時は日本が併合していた朝鮮に検事や憲兵として赴任している日本人達と
日本人だけど平壌で生まれた検事、事務官等として働く朝鮮人。

良くも悪くも、日本の統治が安定していた頃は特に問題は起きなかったけど
終戦を迎えてから、今まで抑えてきたものが溢れ出してくるんですよね。

土地を奪われた農民たち
キリスト教を信仰していたというだけで捕らえられ、殺された者。
それは、そうなるよね・・・。
そんな中でも、「人として」の矜持を守ろうとする人は、日本人であれ
朝鮮人であれ、やはり尊いし、尊敬の念を持たずにはいられない。
検事たちもだし、最後まで豊川達に尽くした朴忠男(浅井伸治)もだし
婿を殺されたものの、朴の説得でと豊川に対する怒りを収めた
チェ・スンファもそう。自分だったら、感情に負けて絶対に無理だ。

しかし、浅井さんって変幻自在だなって思う。
西尾さんや岡本さん(今回は出てないけど)って役者として親和性の
高い役みたいなのがあるんだけど、浅井さん自身は無色透明というか
どういう役でもハマる感じがする。
今回も純朴で、誠実で、でも芯が強くて・・と言う役がピッタリ。
息子を亡くして動けなくなっている豊川の妻を「しっかりしなさい!」
と叱り飛ばしたかと思えば、自分の身の危険も顧みず、豊川開放のために
動いたりもして。思わず泣かされちゃう。

まあ、ここまでは映像を観ても同じことを感じていたんですが、今回
強く感じたのは、朝鮮側の葛藤・・かな。

せっかく自分達を支配していた日本人を追い払えることになったのに
結局はソ連という大国の意志に従わなければならない。
捉えた日本人達を自分たちの意志で裁く事も出来ない。
これは本当に自分たちにとっての「解放」なのか・・と。
そうだったな、日本人から解放されて全て解決!じゃなかったですよね。
その後、南北が分断してしまう訳ですし。

その中で、ソ連の言うなりになる事を嫌悪し、日本人に徹底的な
制裁を加えるる事を主張するパルチザンに居た事もある李孝三(林明寛)と
目の前の事ではなく、自分のポジションを上げて、国を変えていこうと
する人民裁判官の金公欽(大内厚雄)の関係性も興味深かった。
恐らく、金公欽みたいなタイプは指導者になっていくタイプで
李孝三みたいなタイプは、現場指揮者で実力を発揮するタイプ
この二人の後日談も観てみたいな、と思わせる最後でもありました。

いやー、一度観てるし、ここまで感動するとは思わなかった
生の舞台の力を思い知らされたような1本でした。