19時開演って珍しいなぁ・・と思ったら、上演時間が70分。
なるほどね。でもこれぐらいの開演時間だと、仕事が終わって
急ぎの案件だけ片付けて・・でも間に合うので、助かるんだなぁ。

A・NUMBER「A・NUMBER」アートピアホール 3列
19:00開演、20:10終演
脚本:キャリル・チャーチル  演出:上村聡史
出演:戸次重幸、益岡徹
【あらすじ】
クローン技術が進み、人間のクローンを作ることも技術的には可能だが、法的にはグレーゾーンにあたる、そんな近未来の話。舞台は、自分が実はクローンだったと知った息子と、父の対話から始まる。父は、亡くなった実の息子を取り戻したくて医療機関に息子のクローンを作り出してもらったと言うが、実は医療機関のほうでは依頼者には黙って一人ではなく複数のクローンを作っていたらしい。父親はなぜ、息子のクローンを作ったのか。自分がクローンだとわかった息子は、この先どうするのか。他のクローンたちは、どこでどうしているのか。
 


この二人の芝居なので、それはそれは見応えがあり、
特に戸次さんの演じ分けはすごいな・・と思いました。
それぞれの会話は理解しているものの、全体を俯瞰で観ると
分からなくなってしまうような、そんな作品で手ごわかった。





物語の前提など、あまりきちんとした説明がある訳では無くて、
2人の会話などから、背景だったり、物語の内容を読み解いていく・・
というタイプの作品です。
めっちゃ大雑把なあらすじだけは頭に入っていたので、「ああ、あれは・・」
と思う事もありましたが、全く真っ白な状態で観ると、追いつくまでに
ちょっと時間がかかってしまうのかな、とも思います。

まずは最初。仮にここに出てくる息子を「息子A」とすると、
息子Aが父親に詰め寄っている。自分の出自が知りたく、自分が誰かの
クローンであり、同時に同じクローンが何人もいるのではないか、と。
息子Aは「何が起こったのか」をひたすら知りたがるが、父親はずっと
何かを隠しているようで防戦一方。「どこまで話したらいいか」を探ってる感じ。
最初は父親は否定していたけど、ポロポロと背景が分かってきます。
父親に先に息子がいたけど、4歳で亡くなっていたとのこと。
観る限り、息子Aは自分がクローンだった事がショックというか
「数多くのうちの1人」というのがショックだったような印象ですね。
ただ同時に自分が「オリジナル」だと思っていたのにそれが違って、
アイデンティティが揺らいだのかなとも思える。
しかし、息子Aを作り出した理由というのが、「やり直し」ではなく
「全く同じ息子が欲しかった、彼は完璧だった」という発想は怖いとしか・・。
この息子Aというのは、割とイメージしやすいキャラクターでもあって
至極「普通」という感じですね。


次のシーンではまた父子の対話だけど、ここに出てくる息子は父親に
「やつらが君の遺伝物質を盗んだ」と言われているので、どうやらオリジナル
という事になるんだろうと思う。あれ、死んだんじゃなかったの?
「最高傑作」だったはずのオリジナルなのに、めっちゃ怖いんですけど。
犬を虐待するような暴力的な子だったみたいだし。
まず目つきが凄い怖いし、父親を常ににらんでいるような目つきが印象的。
父親は最初その迫力に押されてるが、途中から開き直った感じがするんですよ。
「新たな子を持つより、同じ子を持ちたいと思うのは愛情だ」とか
「同じ素材だから同じ人だ」とか言い始めるんだけど、その話し方が何とも
醜悪というか、何というか。
「コピーが上手くいかなかったのもあった」と言うから、クローンが複数
いたのは知ってたはずで、コイツの本心って・・と思ってしまう。

オリジナルの息子が訪問してきた時に自分とクローンが見分けられなかった
んだよね。このオリジナルも人格的に問題がありそうだけど「俺を見て」
って言うのが切ないし、オリジナルの息子の気持ちがちゃんと分っていなくて
息子は愛情を受けていたと思えなかったんだろうな、と推測すると切ないよね。

・みんなが美しいっていうような完璧な子だtった
・パパ、と叫んでたけど父親は気づいていなかった

次の対話は息子A再登場。
どうやら、息子Aはオリジナルと遭遇。叫んでたりして、異常さを感じ、
逃げる事にし、その後も 後をつけられているような気がして、家を出る事に。
息子Aはオリジナルから危害を加えられる恐れと、クローンが他にもいるという
状況から逃げたいという気持ちなんだろうな。
オリジナルの母親は事故で死んだのではなく電車に飛び込んで自殺したらしい。
父親が「お前にはよくしてやっただろう」って、何だか「何様ですか?」
という印象しか受けませんでしたけどね。
結局オリジナルは、この息子Aを殺してしまった・・という事らしい。

そして最後は息子Bとの対話のシーン。
この息子Bも同じくオリジナルのクローンという事らしいのだけど、
明るく「他の人にも会いました」と無垢な感じで印象が全く違う。
「他の人(クローン)にもあってみたい」とか、その辺りは頓着がない
結婚して子供もいるようだし。
ただ、今までの子達のように自分の内面の話が出来ない感じではある。
どうやら、オリジナルも自殺してしまったみたいなんだよね。
父親は今までと全く違う息子Bとの会話で失ってしまったあの子たちが恋しい」
みたいな事を言うし、失って初めて分かる感情なのかもね、とは思うものの
「誰からも褒められた美しい、完璧な4歳の息子」を追い求めていて、
自分の理想通りの息子を持つことばかり考えてた父親に対しては、悲しんで
いる様子でも、同情するような感情は湧いてこなかったかな。

父親が息子Bに「・自分の人生好きって言えるのか」と聞いた時に
息子Bが「ええ、好きです、すいませんけど」というんですけど、それが
驚くほどのあっけらかんとした言い方で、「すみませんけど」という言葉に
「貴方の期待している答えじゃないですけどね」というニュアンスもあって
ここで息子Bの個性が分かったような気もしましたね。

結局、息子を一人の別の人格として受け入れられなかった父親の話・・
という事なんだと思いますが、なかなか構造が複雑だったり、「で、オリジナル
はどうやって生計を立ててたのか」「なぜ生きているのに父と別なのか」
とか、疑問も残ってしまいました(私が聞き逃しただけかもしれないけど)
これは何度か観て理解を深めたいタイプの作品ですね。

役者のお2人はお見事。
同じ「息子」を演じているのだけど、表情だけで「あ、これはさっきとは違う人」
って理解させることができる戸次さんと、いい父親だと思っていたんだけど
相手によってそれが利己的な考えの人だったり、自己愛の人なんじゃん、と
徐々に内側が分かっていく父親を演じた益岡さんも素晴らしかったなと思います。